欧州環境庁、規制簡素化が進む環境・持続可能性分野の停滞・悪化傾向を指摘
(EU)
ブリュッセル発
2025年10月10日
欧州環境庁(EEA)は9月29日、欧州グリーン・ディールに基づく一連の政策にもかかわらず、欧州の環境面の持続可能性を取り巻く傾向は改善していないことから、関連目標を引き下げるべきでないとする報告書を発表した(プレスリリース)。報告書は、EEAが5年に1度発表する最も包括的なもので、最新の科学的根拠に基づき、欧州の環境、気候、持続可能性を評価したものだ。気候変動緩和策については、一定の進展がみられる一方で、汚染対策や循環型経済への移行については成果にばらつきがあり、生物多様性の損失、生態系の劣化、気候変動への適応についてはむしろ悪化しているとした。各分野の過去の傾向、今後の見通し、2030年目標の達成見込みは、添付資料を参照のこと。
報告書は、温室効果ガス(GHG)の排出削減に関しては全体的に順調だと評価した。全加盟国で再生可能エネルギーへの移行が進んでおり、産業界は2005年以降GHG排出量を35%削減するなど前進がみられた。
一方で、農業部門に関しては厳しい評価が下された。まず、農業部門のGHG排出削減はあまり進んでおらず、長期的な食糧の安定供給に向けた異常気象への適応についても急ぐ必要があるとした。欧州は温暖化が最も急速に進んでいる地域であり、2020~2023年の異常気象に伴う年間平均の経済損失は、2010年代の2.5倍に急増。特に南欧では、干ばつなどの異常気象が既に食料生産に影響を与えているとした。また、食料生産などによる土壌や海洋資源の過剰利用や汚染を指摘。自然保護区の80%以上が劣悪な状態にあり、土壌の60~70%が劣化しており、生物多様性に深刻な影響を与えているとした。
また、循環型経済への移行についても停滞がみられると指摘した。廃棄物のリサイクル率や原材料の利用効率性は改善しているが、2023年のリサイクル済み材料の利用率は11.8%で、2010年から1.1ポイントしか増加していない。EU域内の人口1人当たりの材料消費量は世界の大部分の地域よりも大幅に高く、持続可能でないとした。
環境・持続可能性分野で進む規制の簡素化
EEAの厳しい評価の一方で、欧州委員会は域内産業の競争力強化に向け実質的な規制緩和に動いている。企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD、2025年3月7日記事参照)、森林破壊防止デューディリジェンス規則(EUDR、2025年4月17日記事参照)、農業関連法(2025年5月22日記事参照)など環境や持続可能性に関連する規制が、特に簡素化の対象となっている。
(吉沼啓介)
(EU)
ビジネス短信 b2ff1c96e81fcc6d