欧州委、農業分野の規制簡素化法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2025年05月22日

欧州委員会は5月14日、農業生産者の規制順守に伴う負担の軽減や競争力強化に向けた政策パッケージを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUの共通農業政策(CAP)を部分改正し、直接支払いや一部の規制、危機対応手段をより柔軟に運用する。また、EU農業の強靭(じん)化やデジタル化を進め、特に小規模生産者や青年農業者およびオーガニック農家への支援を手厚くする。欧州委は改正により、生産者は年間15億8,000万ユーロ、加盟国当局は2億1,000万ユーロのコスト削減が可能とした。法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。法案の主な内容は次のとおり。

  • 小規模生産者対象の直接支払い上限額を、年間1,250ユーロから2,500ユーロに引き上げる。
  • 認証取得済みのオーガニック農家は、直接支払い受給に係る環境要件の一部を満たしていると自動的にみなす。
  • 規制の順守状況を確認する農場での実地検査は、「1農場あたり年間1回」に限定。衛星技術などを活用し効率化する。
  • 加盟国が策定するCAP戦略計画の下で、自然災害や家畜疫病の影響を受けた生産者を支援する新たな制度を設ける。加盟国の裁量を拡大し、より迅速な支援を可能にする。
  • 小規模生産者の競争力強化に向け、最大5万ユーロの財政支援を導入する。
  • 加盟国による相互運用可能なデジタルシステムの開発を促進し、生産者は単一システムに関連データを一度だけ報告し、複数回使用を可能とする仕組みを開発する。

環境目標は維持も、今後も簡素化を進める方針

欧州委は同時に、2025年末にかけCAPをさらに簡素化するとし、行程表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。他方、CAPの環境目標は維持するが、主に生産者へのインセンティブが必要な要件などに的を絞って改正し、目標をより効率的に達成することを目指すとした。

欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体のCOPA-COGECAは同日、規制簡素化により、生産者は農場経営に集中し、EU農業の競争力強化に貢献できると、欧州委の方針を歓迎した。一方で、2024年に生産者の抗議活動を受けてCAPが一部改正された(2024年3月4日記事参照)ことに触れ、数次にわたる改正は2028年以降の次期CAPを巡る議論に影響を与えると指摘。また、CAPが簡素化されることで、EUレベルで共通した施策を実施するという本来の目的を損なってはならないと、くぎを刺した。

(滝澤祥子)

(EU)

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