EU首脳、ウクライナ向け賠償ローンとGHG排出削減2040年目標、いずれも合意できず
(EU、ウクライナ)
ブリュッセル発
2025年10月27日
欧州理事会(EU首脳会議)は10月23日、ブリュッセルで公式会合を開催した(プレスリリース
)。主にウクライナ支援、欧州防衛、気候変動対策が議論されたが、いずれも具体的な合意に至らなかった。
まず、ウクライナ支援において議論の中心となったのは、前回の非公式会合でも議論された凍結中のロシア資産を活用した「賠償ローン」(2025年10月6日記事参照)の実施の可否だ。欧州理事会のアントニオ・コスタ常任議長は会合を前に、ウクライナ支援に向けた「政治的な決定」を下すだろうと述べ、合意に自信をみせていた。しかし、現地報道によると、凍結中のロシア資産の大部分を管理する国際証券決済機関ユーロクリアが所在するベルギーが、訴訟リスクを理由に最後まで折れず合意には至らなかった。賠償ローンの実施法案といった具体的な文言はないものの、欧州委員会にウクライナへの財政支援策を早急に提案するよう求めることで一致。12月の次回会合で再度検討するとした。
欧州防衛については、欧州委が提案した行程表(2025年10月22日記事参照)が議論された。今回採択された総括には、欧州委が旗艦プロジェクトに位置付ける「欧州ドローン防衛イニシアチブ」や「東側防衛監視体制(Eastern Flank Watch)」など行程表への明確な支持は盛り込まれなかった。一方で、「加盟国が協調して対ドローンおよび防空能力を強化するための具体的なプロジェクトに特に焦点を当てて取り組むべき」と明記された。
競争力強化に向け気候変動対策の扱いが焦点に
温室効果ガス(GHG)排出削減に関する2040年目標(2025年7月8日記事参照)も焦点となったが、こちらも合意に至らず、総括では2040年目標の達成に向け炭素除去やEU域外のカーボンクレジットの活用の重要性を強調すると明記するにとどまった。当初は2025年9月中の合意を目指したが、カーボンクレジットの活用方法や域内産業の競争力に与える影響などを理由に合意を延期。現地報道によると、11月4日の環境理事会で再度議論される。
また総括は、建物や道路輸送などを対象に2027年から開始予定のEU排出量取引制度(EU ETS)IIの円滑な導入に向けた欧州委の新たな措置にも言及した。これは、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が会合を前に、加盟国に通知した書簡で明らかにしたものだ。欧州委は競争力強化策としてグリーン・ディール関連の簡素化法改正を進めているが、GHG排出削減枠組みについてはまだ手を付けていないことから、今後の提案内容に注目が集まる。
(吉沼啓介)
(EU、ウクライナ)
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