欧州委、欧州防衛強化に向けた2030年までの行程表を発表

(EU)

ブリュッセル発

2025年10月22日

欧州委員会は10月16日、欧州防衛能力の強化に向けた2030年までの行程表を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これは、3月に発表した防衛白書「準備2030」(2025年3月21日記事参照)を具体化したもので、政策ごとに明確な目的と達成すべき期限を設定するものだ(主な内容は、添付資料表参照)。ロシアを欧州の安全保障に対する直近の脅威だとした上で、戦略的な競争が加速し既存の国際秩序が揺らぐ中で、近隣地域だけでなく世界中のあらゆる脅威に対し加盟国が協調的に備える必要があるとする。

行程表は、EUの権限拡大に対する一部加盟国の懸念に配慮し、安全保障・防衛分野における欧州委の役割を調整役と位置づけ、主権は加盟国が引き続き握ることや、行程表の計画はNATOとの緊密な連携を前提とすることを強調する。なお行程表は、10月23日の欧州理事会(EU首脳会議)で議論される予定だ。

ドローン防衛計画を2027年末、東部国境防衛計画を2028年末までに整備へ

欧州委が今回、旗艦プロジェクトして提案したのは、次の4事業だ。特に欧州ドローン防衛イニシアチブと東側防衛監視体制は迅速な整備を求めている。

  • 欧州ドローン防衛イニシアチブ(European Drone Defence Initiative):ドローンを検知、追跡、無力化するための加盟国間で相互運用可能な防衛システム。ドローン技術を活用し、地上目標を精密攻撃する能力も備える。
  • 東側防衛監視体制(Eastern Flank Watch):ロシアを念頭に置いたEU東部の域外国境の共同防衛プロジェクト。対ドローン能力を中核に、東部国境地域の加盟国の陸・海・空の防衛能力を強化。
  • 欧州空域防衛シールド(European Air Shield):あらゆる脅威に対応する加盟国間で統合された多層的な防空・ミサイル防衛システムの構築。
  • 欧州宇宙防衛シールド(European Space Shield):加盟国や民間の宇宙資産やEU宇宙システムを活用し、宇宙資産やサービスを脅威から守るための防衛体制の構築。

このほか、EU域内の防衛能力不足を解消すべく共同開発や共同調達を進めるほか、域内防衛産業基盤の強化、防衛投資の促進、ウクライナ支援も目指す。

巨額の防衛費の見通しにも言及

欧州委は、「準備2030」の実現に向け8,000億ユーロ規模の投資策「欧州再軍備計画」(2025年3月21日記事参照)を既に発表しているが、アンドリウス・クビリウス委員(防衛・宇宙担当)は今回新たに、行程表に基づく試算として、2035年までに欧州全体で6兆8,000億ユーロを防衛関連分野に投資するとの見通しに言及。欧州安全保障における大きな転換点になるとの見方を示した。

(吉沼啓介)

(EU)

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