EU首脳、欧州防衛とウクライナ支援を協議、合意は次回会合に持ち越し

(EU、ウクライナ、ロシア)

ブリュッセル発

2025年10月06日

欧州理事会(EU首脳会議)は10月1日、議長国デンマークの首都コペンハーゲンで非公式会合を開催した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の会合の議題は、欧州防衛とウクライナ支援だった。これらの議題に関し、欧州委員会は新たなイニシアチブを既に提案しているが、いずれも具体的な合意には至らなかった。ただし、今回の会合はあくまで10月23~24日に開催される次回の公式会合の前哨戦との位置づけであることから、次回会合までにどこまで加盟国の意見を集約できるかが注目される。

欧州防衛に関して主な議題となったのは、ロシアを念頭に置いたバルト海から黒海までのEU東部の域外国境での共同防衛プロジェクト「東側防衛監視(Eastern Flank Watch)」だ。これは、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が9月の一般教書演説(2025年9月11日記事参照)で提案したもので、その中心となるのが「ドローンの壁」だ。これは、加盟国の領空を侵犯するドローンを迅速に検知、迎撃、必要に応じて無力化するシステムで、欧州の独立した戦略的能力として欧州委が主導し、加盟国と共同で開発、展開する。政治専門紙「ポリティコ」によると、ドイツ、フランス、イタリアといった主要加盟国が実効性や財源の問題に加え、欧州委の防衛分野での権限拡大に懸念を示した。

ウクライナ支援に関しては、フォン・デア・ライエン委員長が一般教書演説で提案した域内で凍結されているロシア資産の活用が議論された。これは、国際証券決済機関ユーロクリアが管理する凍結中のロシア所有の現金残高を活用し、ウクライナへの融資を実施するものだ。ウクライナによる融資返済をロシアの賠償金の支払い後とすることで、ウクライナは実質的に賠償金を待たずに資金を得ることができる「賠償ローン」の形式をとる。ロシア資産自体には手を付けないとするが、ロシア資産を一方的に活用することから、法的な問題が指摘されている。実施に伴うリスクは加盟国が共同で負うとしているが、「ポリティコ」は、ユーロクリアが所在するベルギーなどが訴訟リスクを危惧していると報じた。

このほか、ウクライナのEU加盟を早期に実現すべく、EU法の各分野の交渉開始時に必要な加盟国の承認を全会一致から特定多数決に変更する案についても、反対が予想さていたハンガリー以外からも反対意見が出たとしている。

(吉沼啓介)

(EU、ウクライナ、ロシア)

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