欧州委、産業と科学でAI技術活用を加速する2つの戦略発表

(EU)

調査部欧州課

2025年10月24日

欧州委員会は10月8日、欧州が人工知能(AI)分野の世界的な競争に対応し、AI産業と科学の両分野で優位性を維持するための「AI活用(Apply AI)」戦略と、「科学分野でのAI(AI in Science)」戦略を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これらは、2025年4月に発表された「AI大陸行動計画」(2025年4月14日記事参照)を次の段階に進めるものだ。

「AI活用」戦略では、10の主要産業分野(注1)と公共部門で、AI導入を促進する具体的な支援策を展開する。中小企業特有のニーズを支援し、各産業がAIを業務に統合することを支援する。さらに、AI開発と導入の課題に取り組むことで、EUの技術的主権を高める。欧州デジタルイノベーションハブ(EDIH)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの役割を強化し、これらをAI体験センターに転換することで、EUのAIイノベーションエコシステムへのアクセスポイントとする。AIに対応する人材を育成するための複数の施策も計画する。

また、EUは「AI活用同盟」という新たなガバナンス機構を設置し、産業界、学術界、公共部門などが参加する政策協議の場を提供する。これと連携する「AIオブザバトリー」を設置し、AIの動向の追跡と、特定分野におけるAIの影響評価を行う。

「科学分野でのAI」戦略は、EUをAI主導の研究と科学的イノベーションの最前線に置くことに焦点を当てている。その中核となる仮想研究機関「RAISE(Resource for AI Science in Europe)」は、AI開発と科学分野への応用に向け、AI資源の集約と調整を図る。EUの研究開発支援プログラム「ホライズン・ヨーロッパ」からは6億ユーロを投じて科学分野の計算能力へのアクセスを強化し、EUの研究者やスタートアップにAIギガファクトリーの利用を促す。

「AI活用」戦略はまた、AIのためのデータ利用拡大を目指すデータユニオン戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによって補完され、AIモデルの学習に不可欠な高品質で大規模なデータの利用可能性を確保することを目指す。

欧州委は10月10日、既存のAIファクトリー(2024年2月1日記事参照)のネットワークに6つの新たなAIファクトリーが加わると発表した。これにより、16の加盟国におけるAIファクトリーの総数は19に増加する。AIファクトリーとアンテナ構想(注2)には合計で26億ユーロ以上を拠出する予定だ。

さらに、今後は「AI活用戦略」とともに、2025年6月までの期間で公開諮問が実施された「クラウドおよびAI開発法」の法案提出が予定されている。

これら欧州のAIにおける戦略はAI大陸行動計画をベースに着実に進められている。

(注1)10の主要産業分野は、医療・製薬、ロボティクス、製造・エンジニアリング・建設、防衛・安全保障・宇宙、モビリティー・運輸・自動車、電子通信、気候・環境、エネルギー、農業・食品、文化・クリエーティブ(メディアを含む)。

(注2)欧州委が10月13日に発表した、AIファクトリーと連携し、EU加盟国とパートナー国に欧州のAIインフラへの安全な遠隔アクセスを提供するという構想(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(坂本裕司)

(EU)

ビジネス短信 8549e3884140715f