AGOA失効と相互関税の影響、アフリカ域内市場は米国の代替にならず、南アのシンクタンク
(アフリカ、南アフリカ共和国、エチオピア、ケニア、米国、中国、ブラジル、トルコ)
ナイロビ発
2025年10月24日
南アフリカ共和国の通商シンクタンク、トララック(Tralac)は10月3日、米国のアフリカ成長機会法(AGOA)失効と相互関税の影響についてウェビナーで解説した(AfCFTAについては2025年10月24日記事参照)。
米国のサブサハラ・アフリカ諸国に対する特恵関税制度のAGOAは2025年9月30日に失効した。10月1日以降はAGOAの特恵税率(0%)が利用できず、原則、一般関税率(MFN税率)が適用され(2025年9月24日記事参照)、さらに相互関税が上乗せされる。これにより、アフリカから米国への輸出品にかかる関税は大幅に増加した。
影響の大きさは各国で異なる。例えば、Tシャツの米国における輸入関税の変化を、2021年以降にAGOA適用除外となったエチオピア、AGOA適用国のケニアと南アの3カ国で比較すると次のとおりだ。相互関税は8月に修正された新税率でエチオピアとケニアがベースラインの10%、南アは30%だ。相互関税前かつAGOA失効前の時点と2025年10月1日以降のTシャツの輸入関税を比べると、エチオピアは32%から42%と10%幅の引き上げにとどまる一方で、ケニアと南アは0%から42%、62%へとそれぞれ大幅に引き上げられた。
〇相互関税前、AGOA失効前
- エチオピア:32%(一般税率)
- ケニア、南ア:0%
〇相互関税後、AGOA失効前(~2025年9月末)
- エチオピア:32%(一般税率)+10%(相互関税)=42%
- ケニア:0%(AGOA適用)+10%(相互関税)=10%
- 南ア:0%(AGOA適用)+30%(相互関税)=30%
〇相互関税後、AGOA失効後(2025年10月1日~)
- エチオピア:32%(一般税率)+10%(相互関税)=42%
- ケニア:32%(一般税率)+10%(相互関税)=42%
- 南ア:32%(一般税率)+30%(相互関税)=62%
南アやケニアなど、特に対米貿易が重要な国は米国と個別交渉を進めるも、正式に合意発表した国はない。代替市場開拓でこのインパクトを吸収しようと、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)を推進し域内貿易拡大を目指す動きもあるが、ステレンボッシュ大学のヘラルド・エラスムス名誉教授は「極めて難しい」と指摘した。南アやエジプトなどの例外を除き、多くのアフリカ諸国は類似商品で競合しており、短期的には新たな世界貿易パートナーを探すしかない。中国は2025年6月、アフリカの後発開発途上国(LDC)に提供している関税免除措置を53カ国に拡大するとし、トララックによると、20カ国以上が既に協定案に署名したという。エラスムス氏は、「既に中国のアフリカ輸出は拡大基調にある。中国にとって貿易協定は必要なく、強気に市場開放を要求するだろう」と指摘し、近年、アフリカとの関係強化を目指すブラジルに対しても「農業の競争力が高い」と警戒を示した。同氏は、米国の相互関税措置やAGOA失効は、米国にもアフリカにも恩恵をもたらさないとし、十分な生産力を持たないアフリカ諸国にとってAfCFTAは答えにならず、中国や東南アジア諸国、トルコなど他の貿易パートナーに機会をもたらす結果となるだろうと指摘した。
(佐藤丈治)
(アフリカ、南アフリカ共和国、エチオピア、ケニア、米国、中国、ブラジル、トルコ)
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