米国のアフリカ特恵制度「AGOA」が9月30日に期限切れ、延長の見通し立たず
(米国、アフリカ)
ニューヨーク発
2025年09月24日
米国のアフリカ・サブサハラ諸国に対する特恵関税制度「アフリカ成長機会法(AGOA)」の有効期限が9月30日に迫る。連邦議会が延長などの立法措置を講じなければ、同制度は失効する。失効した場合、10月1日以降はAGOAの特恵税率(0%)が利用できず、原則として一般関税率(MFN税率)が適用されることになる(添付資料図参照)。米国に輸出するサブサハラ諸国の企業や、同地域をサプライチェーンに組み込む米国企業に影響が及ぶ可能性がある。
AGOAは、米国とサブサハラ地域間の貿易投資拡大や、同地域の持続可能な経済成長の促進などを目的に、サブサハラ産品の対米輸入関税を免除する制度だ。2025年9月時点で同地域49カ国のうち、市場経済、法の支配、人権擁護などの受益要件を満たす32カ国の約6,900品目が対象となっている(注1)。
米国の産業界もAGOA失効を懸念する。米国商工会議所は9月11日、議会で通商を所管する下院歳入委員会と上院財政委員会の各委員長らに対し、AGOAの延長を要請する書簡を提出した。書簡では、多くの米国企業がAGOAを通じた商業的恩恵を享受してきたとして、AGOA失効は米国企業に不確実性をもたらすと主張した。また、AGOAはサブサハラ諸国の市場原理に基づく経済成長への寄与にとどまらず、受益要件を通じて人権擁護などの米国が重要視する価値観の普及に寄与してきたことも強調した。AGOAの失効は、サブサハラ諸国の米国に対する信頼性の低下、米アフリカ間貿易関係の弱体化など、地政学的悪影響を及ぼすと警鐘を鳴らした。
ただし、AGOAの延長に向けた議会の動きは鈍い。これまでも複数の延長に向けた法案が議会に提出されながら、受益要件の制度改革などについて共和、民主両党で合意できず、法案の可決には至っていない。仮に法案が可決されても、成立までにはドナルド・トランプ大統領が同法案に署名するプロセスが待ち受ける。米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は、AGOAなど関税優遇措置について、「相互主義に基づかず、米国に利益をもたらさない」などと批判的な考えを示しており(注2)、AGOAの延長に懐疑的とみられる。実際に、トランプ政権はAGOA受益国に対して相互関税(10~30%、添付資料表参照)を設定していることからも、AGOA延長に否定的な考えとみられる。
現時点ではAGOA失効は規定路線とみられるが、仮に将来AGOAが再承認された場合には、失効時点までさかのぼって輸入者が支払った関税が還付される条項が付帯される可能性がある。例えば、米国の一般特恵関税制度(GSP)は2017年に失効したのち2018年に復活したが、復活に際しては失効期間にも遡及(そきゅう)適用する条項が設けられた(2023年5月22日付地域・分析レポート参照)。このため、将来的な還付申請を見越して、通関書類一式などを保管しておくことが、関税負担軽減に向けた企業の対応手法の1つになり得る。
(注1)AGOA受益国の一覧や、AGOA利用額の多い品目など、AGOAが失効した場合に影響が想定されるサブサハラ諸国の産業については、2025年6月16日付地域・分析レポート参照。
(注2)USTR代表人事承認に関する上院財政委員会の2025年2月の公聴会において、ロン・ワイデン上院議員(民主党、オレゴン州)の質問(8問目)の中で明らかにされた。
(葛西泰介)
(米国、アフリカ)
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