欧州委、復興基金の執行は順調と評価も、欧州会計監査院は課題を指摘
(EU)
ブリュッセル発
2025年10月14日
欧州委員会は10月8日、復興基金の中核政策である復興レジリエンス・ファシリティ(RRF)の実施状況に関する第4次年次報告書を発表した(プレスリリース)。2025年8月末時点での加盟国への支払い総額は3,620億ユーロとなり、総額6,500億ユーロ(2024年基準)であるRRFの55%超に達しており、予算執行は順調だと評価した。ただし、予算の執行に必要な成果目標の達成期限は2026年8月末であり、それ以降に達成した改革・投資については支払いができないことから(2025年6月17日記事参照)、加盟国に対し改革・投資の実施を急ぐように求めた。
報告書によると、2025年4月末時点での加盟国全体の実施状況は、2025年第1四半期までに達成期限が設定されている成果目標のうち、欧州委が適切に達成したと評価したものが49.5%、加盟国が完了したとして欧州委の評価待ちのものが33.7%であり、実施が遅れているものは17%にとどまる。
欧州委は、RRFの成果型予算執行モデルを加盟国による改革や投資を促進させる効果的なメカニズムであると評価(2024年10月22日記事参照)。改革分に関しては、これまでに30%がエネルギー市場改革や交通政策などのグリーン化に、25%が公共機関の強化に、17%が規制簡素化などのビジネス環境の整備に貢献したと分析した。投資分については、完全に実施された場合、2030年までにGDPを8,917億ユーロ押し上げると試算した。
欧州会計検査院、RRF執行の誤りを指摘、MFFへの導入には改善が必要と提言
欧州会計検査院(ECA)は同日、EU予算の執行に関する2024年度の報告書を発表し、RRFについては限定付き適正意見を出した。RRFに限定付き適正意見を出すのは3年連続だ。ECAは、2024年度に実施された28回のRRF補助金支払いのうち、6回分において成果目標の未達成での支払いなどの誤りがあったと指摘。加盟国が提供する情報を欧州委が十分に検査していない事例や成果目標の設定が不明瞭な事例などもあるとした。
欧州委はRRFの成果型予算執行モデルの次期中期予算計画(MFF)への導入を提案しているが(2025年7月22日記事参照)、ECAはこれに批判的だ。ECAは2025年5月、実施による影響などの結果を評価するのではなく、実施状況といったアウトプットを評価するRRFのモデルは成果型とは言えないと結論づけるなどRRFの制度的な課題を指摘した。このほか、欧州委によるRRFの気候変動対策への貢献に対する評価についても過大だと指摘している(2024年9月30日記事参照)。
(吉沼啓介)
(EU)
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