ドイツ政府、技術主権確立と競争力強化へ国家戦略策定、AIなど6分野に55億ユーロ投資
(ドイツ)
ベルリン発
2025年08月06日
ドイツ政府は7月30日、技術革新と経済競争力の強化などを目的とした国家戦略「ハイテク・アジェンダ・ドイツ」を閣議決定した(ドイツ政府プレスリリース
、ドイツ語)。同戦略により、研究・テクノロジー・イノベーション政策を再構築し、より一層の付加価値の創出、競争力、主権の確立を目指す。総額55億ユーロの投資を予定し、今秋から州政府や産業界、学術界、市民社会などとの対話を通じて、実施計画の策定に入る。
この戦略はバイエルン州の先進事例をモデルに、2025年4月に発表されたメルツ政権の連立協定(2025年4月11日記事参照)に基づき、次の6つの領域を重点研究技術領域に指定している。
- 人工知能(AI)
- 量子技術
- マイクロエレクトロニクス
- バイオテクノロジー
- 核融合および気候中立なエネルギー生産
- 気候中立型モビリティー技術
各分野では、具体的なスケジュールを定めた「フラッグシップ・イニシアチブ」が設定され、2025年中には次世代AIモデルの大規模資金提供イニシアチブの開始や、量子通信のための研究衛星の初運用、核融合炉に向けた政府の行動計画の策定などが予定されている。各分野では、マイルストーンと指標を定めた技術ロードマップが策定され、360度モニタリングによって進捗と効果が評価される。
戦略の中で、連邦研究・技術・宇宙省は2030年までにAI関連産業によってGDPの10%を創出する目標を掲げ、欧州委員会が構想する「AIギガファクトリー」(2025年4月14日記事参照)誘致や量子コンピュータ2基の開発計画も発表した。さらに、ドイツや欧州の半導体企業による市場シェアの拡大と技術的主権の確立、核融合技術のイノベーション拠点化など、複数分野で国際競争力の強化を目指す姿勢を示した。
ドイツは優れた基礎研究の実用化に課題を抱えているとされてきた。ドロテー・ベア連邦研究・技術・宇宙相は、研究成果の社会実装こそが持続的な繁栄につながるとの認識を示し、このプロジェクトではステークホルダー間の緊密な連携を促進するとともに、技術移転、エコシステムの創設と活用を通じて、構造的弱点の克服を目指す。
一方、経済紙「ハンデルスブラット」は7月28日、省庁間の連携不足や資金の制約、知財戦略の欠如などを懸念点として報道している。ドイツ商工会議所連合会(DHIK)とドイツ化学工業会(VCI)は同戦略をおおむね肯定的に評価しつつ、迅速かつ具体的な実施計画の策定を求めている。
(打越花子)
(ドイツ)
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