中国依存からの脱却へ、欧州風力発電業界が永久磁石の安定供給ロードマップを策定
(ドイツ、中国、欧州)
ベルリン発
2025年08月13日
ドイツ連邦経済・エネルギー省(BMWE)は8月5日、5つの欧州風力発電事業関連団体(注1)と共同で「永久磁石に関するレジリエンス・ロードマップ」を発表した(プレスリリース
)。風力発電設備に不可欠な永久磁石供給の安定性を欧州全体で高め、中国に依存する調達構造の見直しを図ることを目的としている(注2)。ドイツはEU内で最大の風力発電導入国で(注3)、域内の中心的ステークホルダーとしてこの課題に取り組む。
業界団体提案のロードマップをもとに、今後はEU全体の永久磁石供給網の強靭(きょうじん)化に向けた政策やEU共通の評価基準、制度の導入などを進められるようドイツ政府が支援していく。日本やオーストラリアなど友好国との協力も示唆されている。
この取り組みは、EUの「重要原材料法(CRMA)」(2025年3月27日記事参照)、「ネットゼロ産業法(NZIA)」(2025年5月29日記事参照)と連動している。こうした法制度の枠組みのもと、2026年以降の公共調達・入札における「供給網の強靭性を評価する項目」の導入を提唱。安定供給型の永久磁石に対する需要とインセンティブを創出することで、供給網の再構築が促進されると見込む。
数値目標としては、現時点では9割以上を中国産に依存する永久磁石について、代替供給源の比率を2035年までに段階的に50%まで引き上げる。レアアースについても、2030年以降までに35%とする方針が示された。当該目標の達成に向けたマイルストーンが設定されており、代替供給先の特定や協業の覚書締結を経て、2028年末には新たな供給体制が開始されると見込む。この取り組みが、重要原材料の安定供給計画を必要とする他の産業に波及する可能性にも言及している。
ロードマップ策定に加わった欧州風力協会(ウインド・ヨーロッパ)は、風力タービンに広く使われる永久磁石は中国への依存度が非常に高いが、今回のロードマップはそこからの脱却と安定供給に向けた重要な一歩だとして、政府の取り組みを支持している。
(注1)欧州風力発電事業関連団体とは、連邦風力発電協会(BWE)、連邦洋上風力発電協会(BWO)、欧州風力協会、洋上風力発電財団(Stiftung Offshore-Windenergie)、ドイツ機械工業連盟(VDMA)の5団体を指す。
(注2)報道によると、中国の輸出規制によりドイツ産業界ではレアアースの供給不安が急速に高まっている(「ハンデルスブラット」紙8月7日)。オーストリア供給網情報研究機関(ASCII)は、現状のままでは2040年時点でもレアアース精製における中国依存度が85%を超える可能性があると示唆する。
(注3)ドイツの2024年の風力発電の設備容量は7万2,683メガワット(MW)に達し、総電力需要の約30%を風力発電が賄う。
(打越花子)
(ドイツ、中国、欧州)
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