第3原発再稼働を問う公民投票は不成立、野党・国民党立法委員7人のリコール投票も全て不成立

(台湾)

調査部中国北アジア課

2025年08月26日

台湾で8月23日、2025年5月に稼働を停止した第3原子力発電所の再稼働を問う公民投票が行われた。「第3原子力発電所が監督機関の同意を得て安全上の問題がないと確認された後、運転を継続することに同意するか」との質問に対し、「同意する」(434万1,432票)が「同意しない」(151万1,693票)を大幅に上回ったものの、規定の有効同意票数(注1)を満たさず、不成立となった。投票率は29.5%だった。

台湾では、2016年の民進党政権発足以降、2025年までの「脱原発」政策を推進しており、同年5月17日には唯一稼働を続けていた第3原子力発電所第2号機が40年の運転期限を迎えて稼働停止し、域内の原発はゼロとなっていた。一方、台湾では半導体や人工知能(AI)サーバーなどの投資が活発に行なわれる中、野党や産業界から電力需給の逼迫が指摘されてきた。5月13日には原子炉の稼働期間を40年と定める原子炉施設管理法の改正案が野党の国民党、民衆党を中心に提案、可決され、原発再稼働に向けた動きが活発になっていた(2025年5月19日記事参照)。

頼清徳総統は8月23日に総統府でコメントを発表し、「第3原発の再稼働についての公民投票は不成立となったが、結果を尊重するとともに、社会がエネルギー源の多元化を期待していることも理解している」と述べた。その上で、頼総統は原子力発電の安全について「科学的な検証が必要で、一度の公民投票で解決するものではない。5月に修正された原子炉施設管理法に基づき、(1)核能安全委員会が安全審査方法を定める、(2)台湾電力が安全審査方法にのっとって自主的に安全検査を行うという2つの条件を満たす必要がある」と強調した。核能安全委員会に対しては、各界の意見を聴取して速やかに関連規則を策定するよう要請した。

中華経済研究院緑色経済研究中心の陳中舜副研究員は「原子力発電の議論のカギの1つは、原子力安全の確保だ。技術的な検査のみならず、(制度上の)全ての手続きを完了させることが安全確保の条件となる。合意が形成されていない状況下、多くの不確定要素が存在し、政治的な影響も含まれる。不確定要素がない状況では、台湾電力の過去の経験から報告書提出、核能安全委員会審査から再稼働メンテナンスまでの作業は最短で2年以内に完了可能だ」と述べた(「中央社」8月24日)。

また、同日行なわれた野党・国民党所属の立法委員(日本の国会議員に相当)7人に対するリコール請求(注2)の賛否を問う住民投票についても、結果は7人全て「同意しない」が「同意する」を上回り、不成立となった(注3)。

(注1)公民投票の成立要件の1つとして、有効同意票数が有権者の4分の1以上が規定されている(公民投票法29条)。

(注2)台湾では「公職員選挙罷免法」によって、在職1年以上の立法委員、地方の首長や議員に対して、リコールを請求できる。リコール請求は3段階に分けられ、第1段階では選挙区有権者総数の1%、第2段階では10%以上の署名を集める必要がある。第2段階までクリアすると、第3段階のリコール投票が実施され、同意票が不同意票を上回り、かつ、同意票が選挙区有権者総数4分の1以上となった場合に、リコールが成立する。リコール成立の場合、3カ月以内に補欠選挙が行われる。

(注3)各リコール対象者の投票結果については、中央選挙管理委員会のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますから確認できる。国民党所属の立法委員24人に対するリコール請求第1弾が7月26日に行われたが、結果は全て不成立となっていた(2025年7月31日記事参照)。

(江田真由美)

(台湾)

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