中国外相がインド訪問、印中関係に改善の兆し

(インド、中国)

ニューデリー発

2025年08月22日

中国の王毅・中国共産党中央政治局委員兼外交部長(外相)は8月18日から19日にかけてインドを公式訪問し、インドのナレンドラ・モディ首相やスブラマンヤム・ジャイシャンカール外相らと会談した。モディ首相は会談の中で、2国間の安定的かつ建設的な関係が世界の平和と繁栄に大きく貢献すると強調した。また、8月31日から中国・天津で開催が予定されている上海協力機構(SCO)首脳会議への参加を表明した。

両外相の会談では、両国の国境問題や経済関係を中心に話し合いが行われた。同意内容のポイントは次のとおり。

  • 印中関係の健全かつ着実で持続的な発展の促進
  • 具体的措置を通じた貿易と投資の促進
  • 2国間対話メカニズムの再開
  • 中国本土とインド間の直行便の早期再開(※現在、香港のみに直行便が就航)
  • 観光、ビジネス、メディアなど全分野での双方向のビザ発給の円滑化

また、現地報道によると、会談で王外相はジャイシャンカール外相に対し、インド向けの肥料、レアアース、トンネル掘削機の輸出制限を解除したことを伝えた。これは、前回の外相会合(2025年7月18日記事参照)でインドが中国側に要請していた事項だったとみられる(「エコノミック・タイムズ」紙8月19日)。特に、米国の「相互関税」への報復措置として、2025年4月に中国が全世界を対象に開始したレアアースの輸出制限(2025年4月7日記事参照)に関しては、インドでも自動車業界を中心に生産計画への悪影響が懸念されていたことから、産業界にとって朗報となった。

インドと中国は国境問題を抱えており、2020年6月の両軍衝突以降は関係が悪化していた。中国からインドへの直接投資にはインド政府の事前許可が必要となっているが、承認されるケースは限定的で、現地報道によると、現時点で200件近くの申請が保留中となっている(「ビジネス・トゥデイ」紙8月18日)。また、中国人に対する商用ビザの発給も審査が厳格化されており、実務上、中国からの技術移転に際して障壁になっている点が指摘されてきた。今回の合意内容には、貿易・投資面での関係強化やビザ発給の円滑化が盛り込まれたことから、インドの対中国政策に変化が生じているとして注目が集まっている。

印中関係については、2024年10月に5年ぶりの首脳会談が実現した(2024年11月26日記事参照)ほか、2025年7月にはインド外相が5年ぶりに中国を訪問する(2025年7月18日記事参照)など関係改善の兆しもみられていた。そのような中で、8月6日に発表された米国トランプ政権のインドに対する関税措置(2025年8月8日記事参照)による印米関係の急速な冷え込みは、インド経済にも少なからぬ影響が想定されている。これを踏まえ、自国の国益を最重視した全方位外交を図るインドは、中国を含む各国との関係強化を急いでいるものとみられる。

写真 会談を行ったモディ首相と王外相〔モディ首相X(旧Twitter)より〕

会談を行ったモディ首相と王外相〔モディ首相X(旧Twitter)より〕

(丸山春花)

(インド、中国)

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