カナダのカーニー首相、米国との新たな貿易・安全保障に関する声明を発表
(カナダ)
トロント発
2025年08月27日
カナダのマーク・カーニー首相は8月22日、米国との新たな貿易・安全保障関係に関する声明を発表した。
声明では、カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA、注)対象品目への報復関税措置を9月1日付で撤廃する方針が示され、両国間の自由貿易が再構築される見通しとなった。カナダは、オレンジジュースや電子レンジなど、約300億カナダ・ドル(約3兆2,100億円、Cドル、1Cドル=約107円)相当の米国製品に対して、CUSMAの原産地規則を満たす場合にも報復関税を維持していた。
一方、鉄鋼とアルミニウム(2025年3月14日記事参照)や自動車・同部品(2025年4月7日記事参照)に対する措置は継続され、米国との協議が続いている。また、2026年に予定されるCUSMA見直しに向け、2025年9月から国内協議を開始することも明らかにされた。
カーニー首相は、米国の1962年通商拡大法232条に基づく関税措置が、鉄鋼、アルミニウム、自動車産業に大きな打撃を与えていると指摘。バイオ製造、量子コンピュータ、農業技術(アグリテック)などの戦略産業や、木材(カナダ産針葉樹材へのアンチダンピング税、2025年4月14日記事参照)などを含む分野での集中的な協議を進めていると説明した。また、カーニー首相は、安全保障分野での協力強化や、輸出市場の多角化を進める方針も示している。
こうした動きの背景には、米国が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、8月1日から対カナダ関税を25%から35%に引き上げたことがある(2025年8月4日記事参照)。米国はCUSMAの原産地規則を満たす品目は追加関税の対象外としており、米国がカナダ製品に課す実効平均関税率は5.6%と、米国の貿易相手国の中で最も低い税率を維持し、貿易の85%以上が無税となっている。他方、カナダの対米報復関税はジャスティン・トルドー前首相が発動し、CUSMA原産品も対象としていた。今回の変更は、2026年7月のCUSMA見直しを控え、CUSMAを存続させる目的があるという(通商専門誌「インサイドUSトレード」8月22日)。
カナダ政府は「依存から自立へ」を目標に掲げ、新たな市場の開拓、カナダ人労働者や企業に対する機会の提供を通じて、G7で最も強い経済の構築を目指している。
(注)米国ではUSMCA、メキシコではT-mecと呼ばれる。
(井口まゆ子)
(カナダ)
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