英政府、国営医療サービスに関する10カ年計画公表、健康を害するたばこ、食品、飲料の規制を強化

(英国)

ロンドン発

2025年07月07日

英国政府は7月3日、国営医療サービス(NHS)に関する10カ年計画を公表した(英国政府ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注1)。労働党は2024年7月の総選挙でNHS改革を公約に掲げており、政権を獲得して1週間以内にNHSの課題検証に着手していた。NHSの課題として、診察や治療を受けるまでの待ち時間の長さなどが挙がっていた。

キア・スターマー首相は同日、ロンドン東部の病院で演説し、「3つの転換によってこの国の医療を変革する」と述べた。10カ年計画は次の3つの転換を柱としている。

  1. 病院からコミュニティへ:あなたを中心に設計された地域保健サービス
  2. アナログからデジタルへ:あなたの手に力を
  3. 病気から予防へ:健康的な選択をする力を

1点目については、少なくとも1日12時間、週6日間営業する地域保健センター(NHCs:Neighbourhood Health Centres)をワンストップ拠点として全国各地に開設することを新たに打ち出した。NHCsは、診断、術後ケア、リハビリテーションなどに加え、債務相談、就労支援、禁煙、体重管理などのサービスも提供するという。

2点目については、2028年までに、NHSアプリで検査予約、相談受け付け、薬剤管理、ワクチン予約などの機能を提供できるようにするという。また、医師の診察記録にAI(人工知能)技術を活用することで患者のケアにより多くの時間を割けるようにするという。

3点目については、肥満のまん延の終結、真に喫煙のない未来の創造、若者を取り巻くメンタルヘルス危機への解決に取り組むものとし、具体的に次のような新たな施策が盛り込まれている。

  • 電子たばこやその他のニコチン製品の広告やスポンサー活動の停止、販売時の陳列方法、包装、フレーバーの制限
  • 食品業界の全ての大企業に対する、健康的な食品の売り上げの報告義務化および同報告に基づく売り上げの平均的な健康度の目標義務化(2025年6月17日付地域・分析レポート参照
  • NHSを通じた減量薬へのアクセスの拡大(オンラインでの購入、繁華街や郊外のショッピングセンターでの購入を含む)(2025年6月25日付地域・分析レポート参照
  • アルコール飲料の栄養情報と健康に関する警告メッセージのラベル表示の義務化
  • ノンアルコールや低アルコール製品市場のさらなる成長を支援するため、「アルコールフリー」と表示できる基準をアルコール度数0.5%以下に設定(注2)することを協議
  • ノンアルコールや低アルコールの製品の18歳未満への販売禁止などアルコール製品と同等の制限の適用

アルコール飲料については、厳しい広告規制が盛り込まれるとの事前報道があったが、7月1日付のタイムズ紙などの報道によれば、アルコール飲料業界の反発を受け撤回したとされている。

(注1)イングランドのみ対象。

(注2)現在は、「アルコールフリー」と表示する場合はアルコール度数が0.05%以下、「低アルコール」と表示する場合はアルコール度数が1.2%以下であることをガイドラインによって推奨している。

(林伸光)

(英国)

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