米トランプ政権、ブラジルに対する301条調査を開始、デジタル分野の不公正慣行など理由に

(米国、ブラジル)

ニューヨーク発

2025年07月17日

米国通商代表部(USTR)は7月15日、ブラジルの不公正な貿易慣行に関する1974年通商法301条に基づく調査を開始したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。調査結果によっては、ブラジルからの輸入に追加関税などの輸入制限措置が講じられる可能性がある。

米国のドナルド・トランプ大統領は、7月9日に公表したブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領宛ての書簡の中で、ブラジルからの輸入に8月から50%の相互関税の適用を通告すると同時に、同国に対する301条調査を開始するようUSTRに指示したと明らかにしていた(2025年7月10日記事参照)。

USTRは発表で、ブラジルの(1)デジタル貿易および電子決済サービス分野における米国企業に対する措置や制限、(2)特定国に対する不公正な特恵関税の適用、(3)腐敗行為などに対する不十分な取り締まり、(4)知的財産権の不十分な保護や侵害対策、(5)米国のエタノールに対する高関税の賦課、(6)違法な森林伐採に対する不十分な取り締まりの6項目を挙げ、これらの政策や慣行により米国企業の競争力が損なわれる可能性を指摘した。

USTRのジェミソン・グリア代表は「ブラジルの関税・非関税障壁は、徹底的な調査を実施し、必要に応じて対抗措置を講じるに値すると判断した」と述べた。なお、USTRは301条調査の開始と同時に、相手国に協議を要請することが義務付けられる。実際に、USTRは、ブラジルとの協議を要請したと明らかにした。

近日公示予定の官報案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によれば、USTRは米国時間7月17日からウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで301条調査に関連するパブリックコメントを受け付ける(案件番号:USTR-2025-0043)。また、9月3日に首都ワシントンで公聴会を開催する。

301条は、外国の不公正な政策や慣行が米国の商業に負担や制限を与えるなどと調査を通じて判断された場合に、大統領の指示に従い、外国の製品に追加関税など輸入制限措置を講じる権限や、外国のサービスに料金や制限を課す権限などをUSTRに認めている(注)。米国が2018年7月以降に中国原産品の輸入に課してきた7.5~100%の追加関税や(2024年12月12日記事参照)、2025年10月以降に中国建造船などの入港に課す追加料金(2025年6月11日記事参照)などの措置も同条に基づく。さらに、中国の半導体産業に関する政策や慣行(2024年12月24日記事参照)、ニカラグアの人権や労働権に関する政策や慣行(2024年12月11日記事参照)に関する同条調査がバイデン前政権下で開始されている。

一般に、USTRは調査開始から12カ月以内に措置内容を決定し、決定後30日以内に措置を発動する。 ただし、301条調査と同様に調査終了期限が規定される1962年通商拡大法232条調査では、トランプ政権は期限を待たずに調査を終えていることもあり(2025年7月11日記事参照)、今回も期限前に調査が終了する可能性がある。

(注)具体的な手続きは、同法302~309条で規定される。301条に基づく調査や発動の手続きの詳細は、2024年12月10日付地域・分析レポート参照

(葛西泰介)

(米国、ブラジル)

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