ウィーナー・リニエン、水素燃料電池搭載バスを導入

(オーストリア)

ウィーン発

2025年07月24日

オーストリア・ウィーン市の公共交通機関の運営機関ウィーナー・リニエンは9月から市中心部(第1区)を走るバス路線2Aと3Aで、新型の水素燃料電池搭載バスの運行を開始する予定だ。7月17日に同機関が発表した。イタリアのランピーニ製の水素燃料電池バスは、走行中に電気エネルギーを作ることで航続距離を延ばす「レンジエクステンダー技術」により、従来の電動バスと異なって、日中の充電が不要だ。そのため、これまで同路線で運行していた電動バス12台に対し、走行台数を10台に削減しても、運行が可能となる。

新型バスはウィーン南部(第11区)にある「ウィーナー・ネッツェ・キャンパス」から出発する。この拠点では、1日に最大1,300キログラムの再生可能エネルギー由来のグリーン水素(バス約60台分)が自社の電解装置で生産されており、電動バスに水素を充填(じゅうてん)できる。

10台の購入費用は、EUとオーストリア農林・気候環境保護・地方・水資源省のゼロエミッションバスとインフラ導入を促進する「EBINプログラム」の補助金によって資金提供を受けた。

水素インフラ整備は遅れるも、公共交通では水素に一定の需要

さらに、ウィーナー・リニエンは2025年中に坂道の多い路線39Aでも、水素バス10台の導入を計画している。このバスはポルトガルのカエタノ・バス製で、公共公社ウィーン・エネルギーとウィーンネッツェ(エネルギー供給企業)が運営する水素ステーション(2021年12月16日記事参照)で水素を充填する予定だ。

オーストリア政府は2040年までにカーボンニュートラルを達成する計画を掲げており、水素はその中で重要な役割を担っている。しかし、水素インフラの整備は遅れている。2022年に発表した「水素戦略」では、2030年までに1ギガワット(GW)の電解装置設置を目標としているが、2024年6月時点で生産能力はわずか18.2メガワット(MW)にとどまっていた。さらに、エネルギー大手OMVは2025年に国内の全ての水素ステーションを閉鎖すると発表している。全国で燃料電池車がわずか約60台しか登録されておらず、OMVは「現在の市場条件と当社の戦略的方針の徹底的な分析に基づいての決断だ」と説明した(2025年5月2日記事参照)。

ウィーン市以外にも、国内の複数の自治体で水素バス導入や計画が進められており、公共交通機関での水素(燃料電池)の活用は拡大しつつある。

(エッカート・デアシュミット)

(オーストリア)

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