OMV、オーストリア国内の全水素ステーションの廃止を決定
(オーストリア)
ウィーン発
2025年05月02日
オーストリアのエネルギー大手OMVは、同社がオーストリア国内で経営している水素ステーション5カ所を2025年9月末までにすべて廃止する。現地メディアが4月23日に報じた。ジェトロがOMVに問い合わせたところ、同社は「現在の市場条件と弊社の戦略的方針の徹底的な分析に基づいての決断だ」と説明した。
OMVは水素技術の先駆けとして、2012年にウィーン東部にオーストリア初の水素スタンドを設置し、2017年までにオーバーエースタライヒ州のアステン市、シュタイヤーマーク州の首都グラーツ、チロル州の首都インスブルック、ニーダーエースタライヒ州のウィーナー・ノイドルフ市でさらに4カ所を設置した。こうした水素インフラへの早期の投資にもかかわらず、水素の需要は期待どおりには伸びなかったと説明。2024年12月末にオーストリアで登録されている乗用車523万台強のうち、水素自動車は62台にとどまった(添付資料表参照)。また、「デア・スタンダード」紙(4月24日付)によると、OMVの水素スタンドで提供される水素は再生可能エネルギー由来のグリーン水素ではなく、化石燃料を使用するグレー水素だった。
これにより、2025年9月以降、オーストリア国内では公共の水素ステーションがゼロになる。イノベーション・モビリティー・インフラ省(以下、インフラ省)は「ディープレッセ」紙(4月23日付)に対し、水素ステーションの廃止は残念だが、水素の少ない需要を考えればOMVの決断は理解できる、とコメントした。将来的には、水素は主にバスやトラックの大型輸送機器で使用されるとみられる。ウィーンの公共交通機関の運営機関であるウィーナー・リニエンは、2025年夏から水素バス10台を使用する計画だ(2022年1月から試験運転実施中、2021年12月16日記事参照)。オーストリア南部グラーツ市でも、2023年から水素バスの試験運転を実施している。
水素ステーションの廃止によって、EUの2023/1804規則〔代替燃料インフラ規則(AFIR)〕(2023年8月2日記事参照)で定められた、2030年末までに水素の充填(じゅうてん)インフラを整えることは困難になる。「ディープレッセ」紙によると、同規則に基づきオーストリアは国内で水素ステーションを10カ所設置する目標を課せられている。インフラ省は、2026年までに「需要に基づいた水素インフラの整備」に関する調査を実施し、その結果に基づきAFIRで掲げられる目標の達成までのロードマップを作成することを計画している。
OMVは、産業向けのグリーン水素の生産は引き続き推進する意向を示している。2025年4月30日には、シュベッヒャート製油所でオーストリア最大となる10メガワット(MW)の電解装置を有するグリーン水素製造工場の稼働を発表した。また2027年までに、140MW級の電解装置を有する工場を建設する計画もある。同社の脱炭素化目標の達成に大きな貢献を果たす見通しだ。
(エッカート・デアシュミット)
(オーストリア)
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