欧州委、低炭素水素の算出方法を定める委任規則案を発表、原子力由来は2028年までに検討
(EU)
ブリュッセル発
2025年07月22日
欧州委員会は7月8日、クリーンエネルギーへの移行期間に重要な役割を果たす、低炭素水素の算出方法などを定める委任規則案を発表した(プレスリリース)。
同委任規則案は、天然ガスから水素への移行に向けて改正された、EU域内ガス市場の共通ルールを定める指令の改正(2023年12月7日記事参照)に基づくもの。発表までに時間はかかったが、既にあるグリーン水素の定義に関する委任規則(2023年6月30日記事参照)を補完し、EUにおける水素関連の規制枠組みが整った。欧州委は、法的確実性は投資を呼び込み、域内での水素製造の拡大を後押し、電化が難しい分野の脱炭素化に貢献するとしている。
ガス市場共通ルール改正指令により、水素および関連燃料が低炭素と定義されるには、対策を講じていない化石燃料に比べ、70%の温室効果ガス(GHG)排出削減を達成する必要がある。今般の委任規則案は、達成に向けた方法論、算出方法を定めており、原材料の採掘から生産、輸送、利用、全ての工程でのGHG排出強度を対象とし、輸入される低炭素水素にも適用される。方法論の1つには、天然ガスと二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)の活用により、水素製造段階でGHG排出を防ぐものがある。欧州委は加盟国により異なるエネルギーミックス(2025年6月13日記事添付資料参照)を考慮した結果だと強調する。
一方で、原子力由来の水素に関しては、2028年7月までに、エネルギーシステムとGHG排出削減への影響を検証し、低炭素と定義するかを検討するとした。原子力の活用により、再生可能エネルギープロジェクトへの投資が後退しないよう考慮したもの。2026年には、原子力発電に関する電力購入契約(PPA)に関し、パブリックコンサルテーション(公開諮問)を実施する予定。
欧州の水素利用を促進する業界団体ハイドロジェン・ヨーロッパ(Hydrogen Europe)は7月9日、欧州委の委任規則を受けた声明を発表。公開諮問の後、国・地域別のGHG排出量のデフォルト値導入の検討やGHG排出強度を下げるためにバイオマスやバイオ燃料を低炭素燃料とした点など改善がみられたことを評価した。一方で、PPAによる低炭素電力の購入や原子力由来水素の扱いが2028年7月までの検討事項になったことに対し、一定以上のプロジェクトは、低炭素であるにもかかわらず、自国の電力グリッドのGHG排出強度を報告しなければならず負担になる点などを指摘。脱炭素に向け、明確かつ迅速な法的枠組みが必要とした。
委任規則案は、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会による最長4カ月の審査で不承認とならなければ成立し、官報掲載から20日後に施行される。
(薮中愛子)
(EU)
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