世界貿易と投資の先行き見通せず、2025年版「ジェトロ世界貿易投資報告」発表

(世界)

調査部国際経済課

2025年07月24日

ジェトロは7月24日、「ジェトロ世界貿易投資報告」の2025年版を発表した。本報告では、保護主義の台頭やルールを逸脱する通商措置の拡大がもたらす世界貿易や投資の構造変化の実態を分析した。要旨は次のとおり。

世界貿易、2024年は微増も2025年の先行きは不透明に

2024年の世界貿易額(財貿易、名目輸出額ベース)は、前年比1.6%増の23兆5,547億ドルとなり4年連続で20兆ドル超となった(注1)。​

2025年は、米国が矢継ぎ早に発表した追加関税措置の影響で、世界貿易の見通しは不確実性がいっそう高まる。WTOは、2025年の世界の財貿易量を前年比0.2%減と予測、相互関税の実施や貿易政策の不確実性の拡大を合わせ1.5%減となる可能性も示した(注2)。

2025年1~5月の米国の貿易は、追加関税適用を見据えた駆け込み需要の増加などにより輸入が大幅に増加した。他方、中国との関係では、輸出・輸入がともに大幅に減少した。対中関税を懸念し、特に中国からの主要な輸入品目だったスマートフォンやノートパソコンは、インドやベトナムなどへの輸入先の切り替えが顕著となった(注3)。

産業政策と地政学が揺さぶる企業の投資戦略

2024年の世界の対内直接投資額は、前年比3.7%増の1兆5,088億ドルとなった。分野別では、産業支援策を呼び水に半導体、データセンター、電気自動車関連の製造業が牽引した。特に、各国・地域による生産能力強化に向けた支援策を反映し、半導体分野のグリーンフィールド投資件数(発表ベース)は2020年の約2.7倍と好調だった(注4)。

対して、2025年1~5月の世界のグリーンフィールド投資、同年上半期のクロスボーダーM&Aの件数は、大幅に減少した。追加関税の応酬を受けた投資家心理の悪化、世界経済や資本市場の混乱による。

2024年の日本の対外直接投資は前年比6.5%増の2,081億ドルと2年連続で増加した(注5)。対日直接投資は前年比15.0%減と縮小したが、2025年1~5月は前年同期から大幅に伸長した。2024年の対日グリーンフィールド投資額(発表ベース)が初めて300億ドルを超え、今後の対日直接投資に増加の兆しも見られる。

綻ぶ国際通商秩序、問われる同志国連携の意義

2024年に世界で導入された、補助金、貿易規制、関税措置などの貿易や投資に負の影響を与える「阻害措置」は、2年連続で3,500件を超えた(注6)。また、WTOの上級委員会が機能停止に陥る中で、2025年は米国による関税措置導入を受け、米国を相手取った申し立てが増加傾向となっている。

世界的に保護主義が台頭する中でも、自由貿易の価値を共有する国・地域間では、経済連携の拡大・強化を模索している。EUはCPTPPとの連携に対し積極姿勢に転換したほか、日本も多国間の経済連携枠組み強化を目指すことを表明した。また、グローバルサウス地域は今後30年で世界人口の7割以上になるとされる成長市場だ。サプライチェーン多元化、重要鉱物確保、脱炭素や社会課題解決等の面で日本企業と連携の余地は大きい。

本報告の概要はジェトロの記者発表ページを参照。本文は「ジェトロ世界貿易投資報告」ページで公開している。

(注1)世界の貿易額はGlobal Trade Atlasを基にジェトロ推計。

(注2)WTO「世界貿易見通し」(2025年4月)

(注3)Global Trade Atlasの米国の貿易データによる。

(注4)グリーンフィールド投資はfDi Markets(フィナンシャル・タイムズ)による。投資件数は発表ベース。

(注5)「国際収支統計」(財務省、日本銀行)

(注6)Global Trade Alertのデータベースに基づく。

(峯裕一朗)

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