欧州委、加盟国提出のNECPを評価、2030年GHG排出削減目標は達成の見込み

(EU)

ブリュッセル発

2025年06月13日

欧州委員会は5月28日、EU加盟各国が提出した国家エネルギー・気候計画(NECP)の最終版を分析し(注1、2024年7月9日記事参照)、EUは2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を55%削減(1990年比)する目標の達成に近づいていると発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

各国が2023年に提出したNECP草案(2023年12月25日記事参照)では、2030年のGHG排出削減見込みは51%削減にとどまっていたが、今回の最終版では54%削減と目標達成に近づいた。これは、現在の地政学的状況の中、EUが気候変動対策を続け、クリーンエネルギーへの移行に投資を行い、EUの産業競争力強化と社会的側面を優先していることの証左とした。欧州委の評価によると、提出済みのNECP最終案に基づく主要目標の達成見込みは次のとおり。

加盟国の排出削減の分担に関する規則(ESR)に基づく国内輸送、建物、農業などEU排出量取引制度(EU ETS)の適用外分野のGHG排出削減目標(2030年までに2005年比40%削減)は、草案時点の33.8%削減から、38%削減(2ポイント不足)に改善された。ドイツ、アイルランド、イタリア、キプロス、マルタの5カ国は、目標達成に向けた改善が引き続き求められている。

再生可能エネルギー(再エネ)指令改正法で、2030年のエネルギーミックスに占める再エネ比率目標42.5%は、草案時点の38.6~39.3%から41%(1.5ポイント不足)となった。加盟国の3分の2が目標値を見直したが、依然として11カ国は目標値を下回っており(添付資料表参照)、努力目標45%の達成見込みは厳しい。なお、同指令に基づき、産業界のRFNBO比率(2025年6月6日記事参照、注2)を含めたのは11カ国だった。

エネルギー効率化指令で2030年のEU全体の最終エネルギー消費を11.7%削減する目標は、草案時点の5.8%削減から8.1%削減(3.6ポイント不足)に改善したものの、欧州委のダン・ヨルゲンセン委員(エネルギー・住宅担当)は、引き続き目標達成に向け、計画を具体的な行動に移していく必要性に言及した。

欧州委はエネルギー安全保障の観点からも、加盟国内で発電した再エネの域内シェアを増やすためのインフラ投資の必要性にも言及している。また、クリーン技術への移行に関し、具体的な資金調達目標が欠落していると指摘し、研究・イノベーションに加え、製造能力の拡大、サプライチェーンの確保にも注力するべきとした。欧州委としては、「クリーン産業ディール」(2025年3月4日記事参照)を通じ、既存スキームを含めて1,000億ユーロ規模の財政支援、クリーン製品の需要拡大、許認可の迅速化などを支援していくとした。

(注1)加盟各国が策定するEUの気候変動目標達成に向けた計画表で、最終版の提出期日は2024年6月30日だった。ベルギー、エストニア、ポーランドの3カ国は最終版未提出のため、草案時点などの数値に基づく。2025年4月15日に提出したスロバキアの計画は個別評価中。

(注2)グリーン水素を主体とする非バイオ由来の再生可能燃料。11カ国は、ブルガリア、チェコ、デンマーク、スペイン、イタリア、ラトビア、ルクセンブルク、オランダ、スロベニア、フィンランド、スウェーデン。

(薮中愛子)

(EU)

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