米中通商協議を6月9日に開催、今後は輸出管理も焦点に、合意には数カ月要するとの指摘も
(米国、中国)
ニューヨーク発
2025年06月09日
米国のドナルド・トランプ大統領は6月6日、自身のSNSで、中国との通商協議を6月9日に英国のロンドンで行うと明らかにした。米国側からは、前回も参加したスコット・ベッセント財務長官、ジェミソン・グリア通商代表部(USTR)代表に加え、ハワード・ラトニック商務長官も参加する。トランプ氏は前日の6月5日に、中国の習近平国家主席と電話会談したとSNSに投稿し、今後、あらためて閣僚級で通商協議を行うと述べていた。
トランプ氏の6月5日の投稿によれば、米中首脳による電話会談は、5月にスイスのジュネーブで行われた米中合意(2025年5月13日記事参照)など通商に関する議題のみで、ロシアによるウクライナ侵略などについては話し合われなかった。ジュネーブでの合意では、両国は125%にまで達した相互関税率を削減するとともに、中国は米国に対して4月2日以降に講じた非関税措置を停止、または廃止するために必要な行政措置を講じると定められた。だがトランプ氏は5月30日に中国が「合意を破った」とSNSに投稿した。その具体的な内容は記されていないものの、トランプ氏は電話会談後のSNSでレアアースについて言及しており、中国のレアアースに対する輸出管理が緩和されなかったと主張しているとみられる。実際に米国では、米国自動車イノベーション協会(AAI)と米国自動車部品工業会(MEMA)が、中国によるレアアースの輸出管理強化によって「生産量の削減や、自動車組立ラインの停止が必要になる可能性もある」として、トランプ政権に対し懸念を表明する書簡を提出している(2025年6月5日記事参照)。米中関係に詳しい首都ワシントンの専門家は、ジェトロのインタビューに対して、「中国が簡単に交渉に乗らず、報復措置としてレアアースなどに対する輸出管理を講じることは、これまで何度も行われてきた」「トランプ政権も理解して準備していたはず」と述べている。米国の対中サプライチェーンの観点から、関税の応酬に加え中国による輸出管理強化が与える影響は、以前から懸念されていた(2025年3月19日付地域・分析レポート参照)。
一方の中国は、米国の主張に対し、米国の相互関税に対して実施した関税、非関税措置を取り消すか暫時停止してきたと反論した。むしろ、米国が合意後に、人工知能(AI)チップ輸出管理ガイドランの公布や、中国に対するEDA(電子設計自動化)販売の停止、中国人留学生に対するビザ取り消し表明など、差別的措置を追加したと指摘した(2025年6月3日記事参照)。
米国では商務省の産業安全保障局(BIS)が輸出管理を管轄しており、今後行われる米中の通商協議には、同省のラトニック長官も参加する。ラトニック長官は6月5日、連邦下院の下院歳出小委員会の公聴会に参加し、中国が「われわれの技術を模倣しようとしている」と述べ、輸出管理の執行強化のため、中国国内に2人以上の BIS 捜査官を派遣したいと述べるなど、対中輸出管理強化の方針を示している(ブルームバーグ6月5日)。
米国の中国に対する相互関税、および中国の報復措置は、ジュネーブでの合意によって8月12日まで一時停止されている。だが、輸出管理に代表されるように、両者の間には関税以外にも多くの課題が残されている。バイデン前政権下で駐中国大使を務めたニコラス・バーンズ氏は、政治専門誌「ポリティコ」のインタビュー(6月5日)で、米中間は最終的には何らかのかたちで合意できるだろうとの見通しを示しつつも、一時停止の期間は2025年秋まで延長されるなどして、交渉は「数カ月続くだろう」との見解を示している。
なお、トランプ氏のSNSによれば、両首脳は今後、互いの国を訪問する意向を示している。
(赤平大寿)
(米国、中国)
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