米自動車業界団体、中国のレアアース輸出規制に強い危機感

(米国、中国)

ニューヨーク発

2025年06月05日

ゼネラルモーターズ(GM)やトヨタ自動車など主要自動車メーカーをメンバーとする米自動車業界団体の米国自動車イノベーション協会(AAI)と米国自動車部品工業会(MEMA)は、中国による一部の希土類(レアアース、注1)を対象とした輸出規制が、米国の自動車生産に重大な支障をもたらす恐れがあるとして、トランプ政権に対し、懸念を表明する書簡を提出した(ロイター5月30日)。

中国政府は2025年4月4日、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7種のレアアースの関連品目を対象に輸出規制を発動した。これにより、各レアアースの金属、合金、関連製品、酸化物およびその混合物、化合物およびその混合物について、輸出時に中国政府への許可申請が必要となる(2025年4月7日記事参照)。

これに対し、AAIは書簡で「これらの元素や磁石への確実なアクセスがなければ、自動車サプライヤーは、オートマチックトランスミッション、スロットルボディ、オルタネーター、各種モーター、センサー、シートベルト、スピーカー、ライト、モーター、パワーステアリング、カメラといった重要な自動車部品を生産できなくなるだろう」と指摘。また、MEMAも「これらの重要な自動車部品がなければ、米国の自動車工場が混乱に陥るのは時間の問題」と警鐘を鳴らした。両団体は「事態が深刻化した場合、生産量の削減や、自動車組立ラインの停止が必要になる可能性もある」と警戒を強めている。

レアアースは幅広い製品で利用されるが、自動車分野では排出ガスの浄化に用いられる触媒や、各種モーター用磁石の素材として不可欠だ。今回輸出規制の対象となったテルビウムやジスプロシウムは、ハイブリッド車(HEV)を含む電気自動車用モーターに使用されるネオジム磁石の補助材料などとして用いられ、高温下でも磁性を保つ役割を果たす。またサマリウムは、各種モーターやガソリンエンジンの点火装置などに使用されるサマリウムコバルト磁石の主要成分だ。

世界におけるレアアースの生産量の約7割を中国が占めており、米国も国内需要の72%を中国からの輸入に依存している(注2)。中でも、今回対象となるテルビウムは世界生産量の95%を中国が担っており、ジスプロシウムについてもほぼ全量を中国が供給している。依然、米中関係に大きな進展がみられない中、こうした中国による輸出規制の強化は、米国の自動車業界にとって供給リスクとなる可能性が高く、その緩和に向けた対応が急務となっている。

(注1)産出量が少なく抽出が難しいレアメタルのうち、次の17種類の金属の総称。

スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム (Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)。

(注2)生産量は2023年、輸入量は2019~2022年の値。香港を含む。

(大原典子)

(米国、中国)

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