トランプ米大統領、日鉄によるUSスチール買収認める、今後のCFIUSの運用に注目
(米国、日本)
ニューヨーク発
2025年06月17日
米国のドナルド・トランプ大統領は6月13日、日本製鉄によるUSスチールの買収を認める大統領令を発表した。
日本製鉄とUSスチールは2023年12月、日本製鉄がUSスチールを買収することで合意したと発表した。しかし、対米投資に伴う国家安全保障上の懸念を審査する省庁横断委員会の対米外国投資委員会(CFIUS)が同買収計画を審査し、ジョー・バイデン前大統領が任期終了間際の2025年1月に、CFIUSの審査結果を踏まえて取引を禁止する行政命令を発表した。その後就任したトランプ氏は4月、CFIUSに対しあらためて審査するよう指示する大統領覚書を発表した。バイデン氏の行政命令では、大統領が追加的な命令を発表する権限を留保すると規定していた。5月になると、トランプ氏が日本製鉄によるUSスチール買収を認めたと報じられていた(2025年5月26日記事参照)。
今回発表した大統領令では、日本製鉄が財務省やCFIUSに関係する適切な省庁と国家安全保障協定(NSA)を結ぶことで、安全保障上のリスクを軽減できるとした。また、大統領が国家安全保障を保護するために必要と判断した場合に、日本製鉄とUSスチールに対して、追加の命令を発する権限を留保するとも規定した。
大統領令が出た翌日の14日、日本製鉄とUSスチールは連名でプレスリリースを発表し、両社が米国政府とNSAを締結したと明らかにした。発表によると、NSAは、日本製鉄が2028年までに約110億ドル投資することや、米国政府への黄金株(注)の発行、米国内生産、通商に関するコミットメントなどを規定した。商務省のハワード・ラトニック長官が6月14日にXへ投稿した内容によると、日本製鉄は、大統領または大統領が指名した人物の同意なしに、次を禁止された。
- USスチール本社のペンシルベニア州ピッツバーグからの移転。
- 米国外への本社移転。
- 会社名のUSスチールからの変更。
- USスチールに対する140億ドルの短期投資の削減、免除、遅延。
- 生産または雇用の米国外への移転。
- 安全対策や設備更新など通常の一時停止を除く、(所定期間前の)工場の閉鎖または休止。
- 従業員の給与、アンチダンピング価格、米国外での原材料の調達、買収などに関するその他の保護措置。
CFIUSの権限は、トランプ政権1期目の2018年8月に外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)が成立し(2020年2月20日記事参照)、バイデン前政権下でも罰則と執行権限を強化するなど(2024年11月20日記事参照)、近年、強化されている。これまでCFIUSによる勧告に基づいて、大統領が買収禁止を決定した案件は全部で9件あるとされ、日本製鉄の件以外は全て、中国が何らかのかたちで関与していた。同盟国である日本の企業に対する買収禁止命令は異例だった。戦略国際問題研究所(CSIS)のクリスティ・ゴベラ日本部長は、黄金株を設けることで決着した今回の判断について「国家安全保障に関連する戦略的産業で外国投資のモデルケースとなる可能性がある」と指摘している。
一方で、規制緩和を掲げるトランプ政権は同盟国・パートナー国の対米投資の促進に向け、対米投資案件審査の「ファストトラック制度」を試験運用するとも発表している(2025年5月12日記事参照)。CFIUSが審査する「安全保障上の脅威」に明確な定義はなく、大統領の判断によって決まるが、その範囲は年々拡大傾向にある。トランプ政権2期目でCFIUSがどのように運用されていくのかが注目される。
(注)拒否権付種類株式。保有が1株であっても定款で規定することにより特定事案について株主総会の決議に対し拒否権の行使が可能となる。
(赤平大寿)
(米国、日本)
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