4月のカナダ消費者物価指数、前年同月比1.7%上昇
(カナダ)
トロント発
2025年05月22日
カナダ統計局が5月20日に発表した2025年4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比1.7%上昇で3月の上昇率(2.3%、2025年4月17日記事参照)を0.6ポイント下回った(添付資料表参照)。
統計局は上昇鈍化の主な要因として、エネルギー(前年同月比12.7%減)を挙げた。特に4月1日付で消費者炭素税(注1)が廃止されたことから、ガソリン(18.1%減)や天然ガス(14.1%減)が価格の下落を牽引していると分析。また、関税の影響で国際貿易に減速が見られ、世界的な需要の減少によって原油価格も下落したとした。エネルギーを除いたCPIは、3月(2.5%上昇)に続き、4月は2.9%上昇となった。
一方、減速緩和の要因として、旅行ツアー(前年同月比6.7%増)、食料品(3.8%増)、外食(3.6%増)を挙げた。食料品の上昇率は、2カ月連続でCPI上昇率を上回っており、主に上昇が加速したのは生鮮野菜(3.7%増)、生鮮または冷凍牛肉(16.2%増)、コーヒー・紅茶(13.4%増)、砂糖・菓子(8.6%増)だった。
地域別でみると、4月のCPI上昇率は9つの州で前月から鈍化した。これに対し、ケベック州はガソリン価格の下落幅(12.1%減)が他州と比べ軽微だったことから、物価上昇ペースが加速した。これは、2013年からケベック州が独自の「排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード、注2)」を導入しているため、連邦政府による炭素税の撤廃による影響を受けなかったことが要因。また、ノバスコシア州では、2025年4月施行の同州による減税策
(注3)が物価上昇の鈍化に寄与した、と分析されている。
発表を受けて、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)傘下のRBCエコノミクスのエコノミスト、ネイサン・ジャンゼン氏およびアビー・シュウ氏は、カナダ中央銀行が追加の利下げを決定するには、景気が予想以上に減速していることを裏付ける強い証拠が不可欠となるだろうと述べた一方で、夏に向けては、経済成長の鈍化を背景とした2.25%までの引き下げを予測している。一方、スコシアバンク・エコノミクスの副社長兼キャピタル・マーケッツ・エコノミクス責任者のデレク・ホルト氏は「今後のインフレリスクを考慮すると、利下げの根拠は非常に薄弱だ」とコメントした。
(注1)連邦温暖化ガス汚染価格制度(GGPPA、Greenhouse Gas Pollution Pricing Act)は連邦OBPS制度(Output-Based Pricing System)と連邦炭素税制度(Fuel Charge)で構成される。連邦炭素税制度(Fuel Charge)は、最終消費者を対象に温室効果ガス(GHG)排出に直接かかわる化石燃料(ガソリンや軽油)に対して課される税で、全ての条件を満たした納税者に対し、個人向けカナダ炭素税還付(CCR)が適用される(2023年9月27日付地域・分析レポート参照)。
(注2)温室効果ガスの排出量に上限(キャップ)を設け、その枠内で企業同士が排出枠を売買(トレード)できる仕組み。市場の力を活用して、効率的に排出削減を促す。ケベック州政府は「2030年グリーン経済計画(2030 Plan for a Green Economy:2030 PGE)」を発表しており、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で37.5%削減することを目指している。
(注3)ノバスコシア州は、統一売上税(Harmonized Sales Tax:HST)を導入している。連邦税(goods and services tax:GST)の税率5%と、州税率9%(2025年3月31日まで10%)を一体化した、HST14%として徴収している。
(井口まゆ子)
(カナダ)
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