フィッチ・レーティングス、米国債の格付けを1段階引き下げ「AA+」に

(米国)

ニューヨーク発

2023年08月03日

大手格付け会社のフィッチ・レーティングスは8月1日、米国債の格付け〔長期外貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)〕を最上位の「AAA」から「AA+」に1段階引き下げると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。また、5月に「ウォッチネガティブ」としていた格付け見通しを「安定的」に変更した。3大格付け会社(注)による「AA+」の格付けは、2011年のS&Pグローバル・レーティングスに次いで2社目となる。

フィッチは格下げ理由として、(1)今後3年間に予想される財政悪化、(2)高水準かつ増大する一般政府債務残高、(3)度重なる債務上限問題での膠着(こうちゃく)と土壇場での解決に反映されている、過去20年間の「AAA」格付けの他国と比較したガバナンスの低下の3点を挙げた。

1点目の財政悪化については、同社は財政赤字が2022年のGDP比3.7%から2023年に6.3%、2024年に6.6%、2025年には6.9%に拡大すると予測した。

2点目の一般政府債務残高については、2023年にGDP比112.9%と、新型コロナウイルス感染対策関連の歳出が膨らんだ2020年(同122.3%)から減少したものの、引き続き新型コロナ禍前の2019年(同100.1%)を大幅に上回り、「AAA」格付けの他国(同中央値39.3%)よりも2.5倍以上高いことから、将来の経済的なショックに対する財政基盤の脆弱(ぜいじゃく)性が高まっているとした。

3点目のガバナンスの低下については、度重なる債務上限問題における膠着と土壇場での解決が米国の財政運営に対する信頼性を損ねていることや、中期的な財政枠組みがなく、予算編成プロセスが複雑といった要因が減税や新たな歳出増加、複数の経済的なショックと相まって、過去10年の債務増加に寄与してきたと指摘した。加えて、高齢化による社会保障とメディケア費用の増加といった中期的な課題に対する取り組みの進展が限定的だとした。

また、米国経済の見通しについては、信用状況の逼迫や民間投資の弱まり、消費の減速により、2023年第4四半期(10~12月)と2024年第1四半期(1~3月)は緩やかな景気後退に陥ると予測した。金融政策については、消費者物価指数(CPI)のコア指数が依然として高止まりしていることから、米国連邦準備制度理事会(FRB)は9月に政策金利を5.5%から5.75%に引き上げ、2024年3月まで下げないとした。

ジャネット・イエレン財務長官は今回の発表と同日、反論の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、「債務上限問題やインフラ投資、米国の競争力を強化する投資などの超党派の法案が可決し、ガバナンスに関連するものも含め、政権期間中にこれらの施策は改善されてきた」「現在の失業率は歴史的な低水準に近く、インフレ率は昨夏から大幅に改善し、2023年第2四半期(4~6月)のGDP統計(2023年7月28日記事参照)は米国が経済成長を続けていることを示している」「5月末に下院を通過した財政責任法案(2023年6月1日記事参照)には、1兆ドルを超える財政赤字削減が盛り込まれ、財政的な軌道を改善している」「今回の格下げは恣意的で、古いデータに基づいたものだ」とし、フィッチの決定に強く反対した。

一方、今回の格下げに関する市場の見方は冷静だ。アルビオン・フィナンシャルの最高情報責任者(CIO)のジェイソン・ウエア氏は「フィッチが米国の「AAA」格付けをネガティブ見通しに指定したのは5月だったので、格下げのタイミングが今日だと予想できなかったとしても大きな驚きではない。市場で意表を突かれた人はいないだろう」と述べた(ロイター8月1日)。実際に、米国の10年債の利回りはほとんど変化せず、債券市場は格下げを受け流したとみられる(ブルームバーグ8月1日)。

(注)フィッチ・レーティングス、S&Pグローバル・レーティングス、ムーディーズ・インベスターズ・サービスの3社。

(加藤翔一)

(米国)

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