スリランカ政府が米国政府と相互関税を巡り協議、自国企業の競争優位の確保に意欲
(スリランカ、米国)
コロンボ発
2025年05月07日
スリランカ政府代表団は4月22日、米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表と米国ワシントンで会談した。スリランカ政府側は、同国が経済再建の途上であることを説明した上で、貿易赤字の削減、関税および非関税障壁の引き下げへの決意(2025年4月9日記事参照)を強調した。グリア代表は、交渉開始に向けたスリランカの提案に謝意を示し、早期の合意成立への期待を示した。
ハルシャナ・スーリヤッペルマ財務副大臣は4月30日の記者会見で、「米国側に対して、スリランカはIMFの金融支援プログラム(注1)を受けていることから財政収支の改善といった目標を順守する必要があり、関税率などの交渉もこれら目標を踏まえたものとなる点が他国と異なると説明した」と話した。その上で、「交渉の目標はスリランカ企業が米国市場での競争優位を維持することだ」と強調するとともに、「米国側には、交渉のカギとなるのはエネルギー分野だと説明し、天然ガスや原油、精製油などが競争力のある価格でスリランカに供給されれば、両国にメリットがある」と語った。
有識者が米国の関税政策の影響を議論、新たな経済改革の可能性も
セイロン商工会議所は4月30日、米国の関税政策に関するセミナーを開催し、有識者がスリランカに与える経済的な影響や企業が取るべき戦略について議論した。
カーマヤー・ペレーラKPMGパートナーは、「米国の関税政策により、米国向け輸出額が大きい衣料品やゴム製品に加えて、コロンボ港での貨物の積み替え需要が変化し、物流企業に影響を与える可能性もある。まずはスリランカと米国間の交渉の行方を注視し、各社はバイヤーとコミュニケーションを図る必要がある。長期的には、輸出先の多角化や、完成品製造拠点の海外移管、高価格でもバイヤーが納得できるようなブランディングなどが有効だろう」と話した。
シラン・フェルナンド・セイロン商工会議所経済政策チーフアドバイザーは、「スリランカでは、今回の米国の関税政策を受けて、経済の成長と安定化に向けた、準関税(para tariff、注2)の段階的撤廃や税の合理化、貿易円滑化、公共サービスのデジタル化、投資の円滑化や非関税障壁の撤廃などの新たな改革が促進される可能性がある」と指摘した。
(注1)IMFによる金融支援パッケージ〔拡大信用供与(EFF)プログラム〕では、スリランカに対して2023年から4年間で総額22億8,600万SDR(約30億ドル)を提供している(2023年3月22日記事参照)。SDRはSpecial Drawing Rightの略で、特別引出権のこと。通貨ではないものの、その価値はドル、ユーロ、中国人民元、日本円、英国ポンドの5通貨のバスケットに基づいた国際準備資産。
(注2)準関税とは、関税と同様の効果を有する、外国との貿易取引で生じる関税以外の課徴金や手数料などのこと。スリランカでは輸入品に対して、関税に加えて物品税(Excise Duty)や輸入税(CESS)、付加価値税(VAT)、港湾・空港開発税(PAL)などを課している(スリランカの関税制度参照)。
(大井裕貴)
(スリランカ、米国)
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