サンチェス・スペイン首相が公式訪中、米中対立激化の最中に
(スペイン、中国、米国)
マドリード発
2025年04月16日
米中による関税報復合戦が過熱する中、スペインのペドロ・サンチェス首相は4月11日、公式訪問中の中国で、習近平国家主席と首脳会談を行い、中国との連携強化を確認した。同首相は会談で、2025年はEU・中国外交関係樹立から50周年、また、2国間の包括的戦略パートナーシップ協定締結から20周年を迎えるとして、長年にわたる協力関係を強調した。「スペインは中国をEUのパートナーと見なしており、対話、互恵、調和に基づく強固で均衡のとれた2国間関係、経済通商関係の推進に努めていく」とも述べた。
この発言は、EUの対中公式見解の「協力パートナーであると同時に、経済上の競争相手、体制上のライバル」と比較して、大幅に中国寄りではないかとスペイン国内で物議を醸した。同首相は会談後の共同記者会見で、スペインの外交政策はEUと米中両国との関係強化に貢献することを意図しており、「誰に対しても敵対するものではない」とした。また、他の地域・通商ブロックとの連携構築を引き続き目指すEUの価値観や利益を擁護し、安全保障協力、多国間の明確なルールと理解に基づく貿易体制を支持するものにほかならないと説明した。
また、サンチェス首相は李強首相とも会談し、豚肉や医薬品などの市場アクセス改善や、映画などの分野の協力について合意した。さらに、自動車メーカーの奇瑞汽車や零跑汽車(リープモーター)、バッテリー製造企業エンビジョンAESCを傘下に持つ遠景科技集団(エンビジョングループ)、資源大手の天斉リチウム、電解槽製造ハイグリーンエナジー、車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)など、スペインへの投資を決定、または検討中の主要企業幹部とも会合した。
米国相互関税の影響は限定的
サンチェス首相の訪中は過去2年で3度目となり、ドナルド・トランプ米大統領との会談で訪米するイタリアのジョルジャ・メローニ首相とは対照的な動きだ。スペインの国益を考えると、ネットゼロ産業への投資誘致や、農産品の輸出拡大で中国の重要性は高い。他方、スペインの対米輸出は輸出全体の5%と少なく、スペイン商工会議所によると、米国による関税措置がスペインのGDPに与える影響はマイナス0.21ポイントで「極めて限定的」とされる。中国に賭けるかたちになった背景には、こうした思惑もあったとみられる。
なお、米国のスコット・ベッセント財務長官は9日に米国FOXビジネスの番組に出演し、「スペイン政府関係者が、欧州は米国よりも中国に目を向けるべきと発言したが、それは欧州にとっての負けを意味する。米国が関税の壁を築くことで、中国政府の補助金を受けた安価な中国製品が欧州へと流入するからだ」と警告した。
(伊藤裕規子)
(スペイン、中国、米国)
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