トランプ米大統領、木材・製材品への232条調査を指示
(米国、カナダ)
ニューヨーク発
2025年03月03日
米国のドナルド・トランプ大統領は3月1日、木材・製材品の輸入に対して、1962年通商拡大法232条に基づく調査を行うよう商務長官に指示する大統領令を発表した。トランプ政権2期目で232条調査の実施を指示するのは、銅に続いて2件目となる(2025年2月26日記事参照)。
大統領令によると、米国は2024年時点で針葉樹消費量の95%を自給できるが、2016年以降、米国は木材の純輸入国となっており、木材サプライチェーンの深刻な脆弱(ぜいじゃく)性に直面していると指摘した。また、米軍は施設建設のために、木材に毎年100億ドル以上を費やしていると述べ、外国政府の不当な補助金などを受けた木材、製材品、派生製品の輸入が、国家安全保障を損なう恐れがあるかを判断するため、232条に基づく調査を行うとした(注1)。具体的な調査項目は次のとおり。
- 米国の木材、製材品の現在および今後の需要
- 木材、製材品の米国内生産が国内需要を満たすことができる程度
- 米国の木材、製材品の需要を満たす上で、主要輸出国のサプライチェーンが果たす役割
- 外国政府による補助金および略奪的貿易慣行が米国の木材、製材品、派生製品産業の競争力に与える影響
- 米国内の木材、製材品の生産能力拡大の実現可能性
- 現行の通商政策が米国内の木材、製材品、派生製品の生産に与える影響、および国家安全保障を確保するための関税賦課や関税割当などの必要性
商務長官は、大統領令が発表された日から270日以内に上述の調査を完了し、次の項目を含めて大統領に報告書を提出する。
- 木材、製材品、派生製品の輸入が国家安全保障を脅かすか否かの判断
- 潜在的な関税、輸出規制、米国内生産増加へのインセンティブなど脅威緩和措置の提言
- 戦略的投資、許認可の改革を通じて米国の木材、製材品のサプライチェーンを強化するための政策提言
ホワイトハウス高官によれば、本大統領令は米国の木材、製材品の大部分を自給自足することを目的にしているという(政治専門紙「ポリティコ」3月1日、注2)。また、ピーター・ナバロ上級顧問(通商・製造業担当)は、バイデン前政権の破滅的な木材関連政策によって建設費や住宅費が高騰し米国を貧困化させており、その背景にはカナダ、ドイツ、ブラジルといった国が木材を米国市場にダンピング輸出して米国の貿易赤字を増大させていることがあると指摘し、今回の調査ではこれらが主な対象国になることを示唆した(米国通商専門誌「インサイドUSトレード」3月1日)。米国は、特にカナダ製材については不当に安い価格で米国に輸出されているとして、アンチダンピング税(AD)と補助金相殺関税(CVD)を課しており、両国間の通商上の長年の懸案の1つになっている(2024年9月2日記事参照)。トランプ氏は2月中旬に、木材に対して25%の追加関税を検討していると述べており、仮に232条に基づき追加関税が課されれば、最恵国(MFN)関税やAD、CVD、その他の追加関税(注3)に加えた関税が課されることになる。
安全保障上の理由から、先端半導体などへの規制強化が続く現代において、木材の輸入がどれだけ安全保障上の脅威となるといえるのかが今後の焦点になる。
(注1)232条は、ある製品の輸入が米国の安全保障を損なう恐れがあると商務長官が判断した場合に、当該輸入を是正するための措置を取る権限を大統領に与える法律となっている。232条の調査スケジュール、大統領による措置決定までの手続きなどの詳細については、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(注2)トランプ大統領は同日、「米国産木材生産の即時拡大」と題して、内務長官や農務長官に米国内生産の拡大などを指示する大統領令も発表している。
(注3)カナダに対しては、メキシコと同様、不法移民と違法薬物の流入を理由に、3月4日以降、国際緊急経済権限法(IEEPA)を基に、25%の追加関税賦課も検討されている(2025年2月5日記事参照)。
(赤平大寿)
(米国、カナダ)
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