トランプ米大統領、232条に基づき銅輸入の安全保障上の影響調査を指示
(米国)
ニューヨーク発
2025年02月26日
米国のドナルド・トランプ大統領は2月25日、1962年通商拡大法232条に基づき、銅の輸入が米国の安全保障に与える影響を調査するよう商務長官に指示する大統領令を発表した。232条は、ある製品の輸入が米国の安全保障を損なう恐れがあると商務長官が判断した場合に、当該輸入を是正するための措置を取る権限を大統領に与えている。
大統領令では、銅は米国の国家安全保障、経済力、産業の強靭(きょうじん)性に不可欠な重要材料であり、防衛、インフラ、クリーンエネルギー、電気自動車(EV)などで重要な役割を果たしていると指摘した。一方で、米国は銅の採掘、製錬、精製において国外依存度が高まっており、銅のサプライチェーンは重大な脆弱(ぜいじゃく)性に直面していると指摘した。同日に発表されたファクトシートによれば、米国の銅輸入への依存度は、1991年のほぼ0%から2024年に45%にまで急増しているという。
今回の大統領令で示された調査対象となる銅は、次のとおり(注1)。
- 銅鉱石
- 銅精鉱
- 精製銅
- 銅合金
- スクラップ銅
- 派生製品
また、調査の主な内容は、次のとおり。
- 米国の国防、エネルギー、重要インフラ部門における銅の現在および今後の需要
- 米国内での生産、製錬、精製、リサイクルが需要を満たすことができる程度
- 米国の需要を満たすにあたっての外国のサプライチェーン、特に主要輸出国のサプライチェーンの役割
- 米国の銅輸入が少数のサプライヤーに集中していることに関連するリスク
- 外国政府による補助金、過剰生産能力、略奪的貿易慣行が米国の産業競争力に与える影響
- ダンピング、国家支援の過剰生産によって人為的に抑制された銅価格が経済に与える影響
- 外国による輸出制限の可能性(外国が精製銅の供給管理を武器化する能力を含む)
- 輸入依存度を低減するための米国内の銅採掘、製錬、精製能力増強の実現可能性
- 現行の通商政策が米国内銅生産に及ぼす影響、および国家安全保障を確保するための関税賦課や関税割当などの必要性
商務長官は大統領令が発表された日から270日以内に、上述の調査を完了し、次の項目を含めて大統領に報告書を提出する。
- 銅の輸入への依存が、米国の安全保障上の脅威か否かの判断
- 関税、輸出規制、米国内生産増加へのインセンティブなど、脅威を緩和する措置の提言
- 戦略的投資、許認可の改革、リサイクルの強化を通じて米国の銅サプライチェーンを強化するための政策提言
232条は、トランプ政権1期目でもたびたび活用された。実際に追加関税賦課といった輸入制限措置が取られたのは鉄鋼・アルミニウム製品に対してのみだが(2025年2月12日記事参照)、自動車・同部品やウラン製品など、複数の産品に対して232条調査は行われた(注2)。なお、232条に基づく調査の期限は270日以内と定められているが、ハワード・ラトニック商務長官は、期限よりもかなり前に調査を終えるとみられている(米国通商専門誌「インサイドUSトレード」2月25日)。
(注1)ただし、調査対象はこれらに限定されない。
(注2)232条の詳細については、2024年12月10日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国)
ビジネス短信 6fedb41e7af41faa