トランプ関税への対応でサプライチェーン変更は困難、状況を注視、在米・メキシコ日系企業ヒアリング
(米国、メキシコ、日本)
ニューヨーク発
2025年02月21日
米国のドナルド・トランプ大統領は就任後、公約に掲げていた関税政策を実行に移している。ジェトロが、これまでに発表された追加関税などによる影響について、在米国、在メキシコの日系企業にヒアリングしたところ、コスト増を懸念しつつもサプライチェーンの変更は現実的ではないとして、状況を冷静に見極めようとする姿勢がうかがえた。
トランプ氏は2月1日、カナダとメキシコ産の全製品に25%、中国産の全製品に10%の追加関税を課す大統領令を発表した(2025年2月3日記事参照)。このうち、カナダとメキシコに対しては関税賦課を3月4日まで延期したが(2025年2月5日記事参照)、中国に対しては2月4日から実際に新たな追加関税を課している。その後2月10日に、鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税の適用除外制度の廃止や、アルミ製品の追加関税率引き上げを3月12日から行う大統領布告を発表した(2025年2月12日記事参照)。さらに2月13日には、貿易相手国に対する「相互関税」の導入に向けた大統領覚書を発表した(2025年2月14日記事参照)。そのほかトランプ氏は、半導体、医薬品などに対する新たな関税を近い将来(2025年1月29日記事参照)、自動車に対しては4月2日以降に賦課するとも述べている。こうした発表に対して、一部の米国企業などは歓迎する声明を出しているものの、産業界からは反発の声が多くあがっている(2025年2月4日記事参照)。特に、自動車産業に対する影響が懸念されている(2025年2月4日記事、2025年2月12日記事参照)。
これらの追加関税が及ぼす影響について、ジェトロが2月中旬に、在米国、在メキシコの日系企業にヒアリングしたところ、具体的な政策が判明するまでは様子見だが、サプライチェーンの変更は現実には困難だとする見方が大勢だった。
在メキシコの自動車関係企業は、北米では完成車に至るまでに部品が複数回国境を越えるため、新たな関税が課されると影響は大きくなるとしつつも、「追加関税の対象品目や税率が固まり切っていない状況では対応のしようがない」「サプライチェーンの変更には3~4年が必要」と指摘し、新たに関税が賦課されたとしてもサプライチェーンを大きく変更する見込みは低いとの見通しを示した。
半導体も同様で、原料の変更だけで3年かかるといわれており、同産業に詳しい在米国のコンサルタントは「これから4年弱と決まっている政権下で、サプライチェーンが変わるとは思わない」と指摘した。
こうした状況下で取り得る対応策として、在メキシコの自動車関係企業は、生産能力の限界はあるとしつつも、複数の拠点で生産している部品であれば、関税がかからない拠点での生産量拡大などが考えられると述べた。サプライチェーンの変更を検討するのではなく、生産調整で対応するとの背景には、メキシコに対する追加関税は中国とは異なり、たとえ賦課されたとしても一定の期間で解除される可能性があるとの見方も関係しているとみられる。在メキシコの台湾企業も同様に、現状を注視しているとの声が聞かれた。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、日本)
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