欧州人民党、CSRD、CSDDD、CBAMなどの対応負担の大幅軽減と適用延期求める
(EU)
ブリュッセル発
2025年01月23日
欧州議会の最大会派・欧州人民党(EPP、中道右派)は1月18日、ドイツ・ベルリンで会合を開催し、域内産業の競争力強化に向け、規制の簡素化を求める文書を採択した。会合には、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長や、欧州議会のロベルタ・メツォラ議長、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相、2月23日に実施されるドイツ総選挙(2025年1月7日記事参照)で勝利が有力視されるキリスト教民主同盟(CDU/CSU)のフリードリヒ・メルツ党首などEPP所属の政治家が出席した。
EUでは生産性の停滞により域内産業の競争力が低下しているとして、企業の規制対応負担を軽減すべきとの指摘(2024年9月19日記事参照)が注目を集めており、2024年6月の欧州議会選挙では新規制の導入反対や既存規制の簡素化を掲げたEPPが勝利した(2024年7月10日付地域・分析レポート参照)。
2024年12月に再任されたフォン・デア・ライエン委員長も、欧州グリーン・ディールを維持しつつ、企業の規制対応負担を軽減する方針を発表している(2024年7月30日記事参照)。2月26日には、企業持続可能性報告指令(CSRD)、タクソノミー規則(注1)、企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD、2024年4月26日記事参照)の報告義務の重複を解消する「オムニバス法案」を提案する予定だ(2024年11月18日記事参照)。
EPPは、今回採択した文書でオムニバス法案を歓迎する一方で、報告義務の対象企業の範囲を従業員数1,000人以上の企業に限定し、義務の内容を最低でも50%削減した上で、中小企業への間接的な影響を排除すべきと、より踏み込んだ内容を要求した。また、CSRD、CSDDD、炭素国境調整メカニズム(CBAM、注2)など、今後適用が本格的に開始される規制に関し、適用を少なくとも2年間保留することを求めた。
さらに、脱炭素化目標の実現に資するのであれば技術を問わないとする「技術中立」を推進すべきとの立場を強調し、再生可能エネルギー比率の2030年目標(2023年9月20日記事参照)の後継として欧州委が策定予定の2040年目標に反対した。なお、EPPは、2035年以降の内燃機関を搭載した新車の販売禁止や、2025年以降の新車の二酸化炭素(CO2)排出基準の厳格化に伴う罰金の早期見直し(2024年12月18日記事参照)も求めている。
EPPは欧州議会選以降、規制対応負担の大幅削減を画策しているが、森林破壊防止デューディリジェンス規則の修正提案のように必ずしも成功していない(2024年12月5日記事参照)。
(注1)CSRDとタクソノミー規則の詳細は、ジェトロの調査レポート「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」(2024年5月)を参照。
(注2)CBAMの詳細は、ジェトロの調査レポート「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)の解説(基礎編)」(2024年2月)を参照。
(吉沼啓介)
(EU)