米USTR、米中間サプライチェーンの変化を指摘、301条関税の見直し報告書
(米国、中国)
ニューヨーク発
2024年05月16日
米国通商代表部(USTR)は5月14日、1974年通商法301条に基づく対中追加関税(301条関税)の見直しに関する報告書を公表した。報告書は、中国の強制的な技術移転など不公正な慣行に対抗するという301条関税の目的に対して、実際に中国の慣行改善につながったかなど、その効果を検証した内容になっている。
報告書は、301条関税を巡る交渉の結果、不公正な慣行の撤廃などを約束した米中貿易・経済協定(2020年1月16日記事参照)を締結したなど、関税賦課には一定の効果があったと指摘した。一方で、懸念される慣行の多くが維持されているほか、中国がサイバー攻撃を通じて外国企業の技術を窃取する試みを続けており、米国の商業にさらなる負担や制限を与えていると問題視した。
また、301条関税が中国の慣行に対して、貿易と投資の両方で意味のあるコストを同国に与えたと指摘した。貿易面では、中国製品の輸入価格を上昇させたことにより、米国の輸入者に代替調達先を探す動機を与えてサプライチェーンの変化を促した一方、中国は損失分を第三国に完全に振り向けて埋め合わせることはできていないとした。これは米国の輸入統計にも表れており、301条関税賦課以降、米国の対中輸入額が減少したと説明した(注1)。また、この傾向は追加関税率が高く設定された品目ほど顕著で、追加関税率7.5%のリスト4Aの品目より、25%のリスト1~3の品目の方が輸入額は減少したとした(注2)。対照的に、ASEAN、インド、メキシコ、カナダ、EUからの輸入額は増加しており、調達先の多元化により強靭(きょうじん)なサプライチェーンの構築につながった可能性があるとした(注3)。投資面では、半導体などの戦略分野で外国企業の対中グリーンフィールド投資額が減少していると報告した民間調査やIMFの資料を引用しつつ、301条関税が外国企業の対中投資意欲を減退させる一因になったと結論づけた。さらに、これら貿易投資動向に示される第三国へ生産移管する動きが、米国企業にとって中国の技術移転に関連するリスクを軽減する役割も果たしたとした。
米国経済への影響については、主に米国国際貿易委員会(USITC)の報告書(2023年3月20日記事参照)を引用しつつ、中国の報復関税も相まった米中貿易の減少に伴い、短期的に経済厚生と実質所得にわずかなマイナスの影響を与えたとしている。関税上昇分のコストは米国の輸入価格に転嫁されたとしつつ、追加コストは主に輸入・輸出業者が負担しており、最終消費者への影響は大きくなかったとした。国内産業への影響については、対中輸入額が301条関税賦課以降に年平均740 億ドル減少する一方、第三国からの輸入は484億ドル増加したとのUSITC報告書の推定を引用し、対中輸入の減少と第三国からの輸入増加の差は、米国の国内生産の増加によって説明されるとし、国内産業へのプラスの影響を指摘した。
報告書では、引き続き残る中国の不公正な慣行への懸念や301条関税の有効性を考慮して、現在の301条関税を維持すること、中国が市場で支配的な地位を狙うとともに米国が大規模に投資を行う分野で301条関税の関税率を引き上げることを提言している。ジョー・バイデン大統領は、報告書発表と同日、USTRに対して、半導体や電気自動車(EV)などの301条関税の関税率を引き上げるよう指示している(2024年5月15日記事参照)。
(注1)ただし、新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、為替レートの変動、中国の人件費高騰、米国の消費需要変化など、ほかの要因の可能性にも言及している。
(注2)301条関税は、2018年7月のリスト1(追加関税率25%)、2018年8月のリスト2(25%)、2018年9月のリスト3(2019年5月に10%から25%に引き上げ)、2019年9月のリスト4A(2020年2月に15%から7.5%に引き下げ)の4回にわたって段階的に講じられた。
(注3)米国の301条関税対象品目の輸入額の推移は2024年1月18日付地域・分析レポート参照。
(葛西泰介)
(米国、中国)
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