米下院の民主党議員88人、WTOやIPEFのデジタル貿易ルール支持撤回を評価、大統領に書簡送付

(米国)

ニューヨーク発

2024年02月15日

米国連邦議会下院の民主党議員88人は2月13日、WTOの共同声明イニシアチブ(JSI)会合やインド太平洋経済枠組み(IPEF)でのデジタル貿易に関する支持撤回を評価する書簡をジョー・バイデン大統領に送付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしたと発表した。米通商代表部(USTR)はWTOで、越境データフロー、データローカライゼーションの要求禁止、ソースコードの開示要求禁止に関わる提案への支持を取り下げると発表していたほか(2023年10月30日記事参照)、IPEF交渉でもデジタル貿易の協議先送りを決めていた。

書簡を主導したのは、下院歳出委員会のロサ・デラウロ少数党筆頭理事(民主党、コネチカット州)だ。書簡では「USTRのキャサリン・タイ代表がWTOやIPEF交渉で、デジタル経済のルール作りに関する米国議会での議論を頓挫させるような、トランプ時代のルールを容認しないと明言したことを高く評価する」と述べた。トランプ政権下で発効した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に含まれるデジタル貿易章は、巨大IT企業の利益になる条項が組み込まれているとし、「これらの条項は米国の過去の通商協定にはなかったもので、米国内のオンラインプライバシーやデータセキュリティーに関する規制、ギグワーカーの保護、人工知能(AI)の監視、テクノロジーの独占禁止、その他の重要な政策を制限するために設計された」と批判した。その上で、国際的なルール形成の前に、米国内でのルール確定を優先すべきとの立場を示した。

USTRも同日、同書簡の内容をUSTRのウェブサイトで公開外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。また、タイ代表は、書簡が送付される前日の12日、外交問題評議会(CFR)が開催したイベント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、WTOでの支持撤回は「(デジタル貿易に関する)課題に対して、われわれの現状をよりよく反映させることができる熟慮を重ねた行動」とこれまでの立場をあらためて示した。また、データに対するプライバシーの権利など、米国ではデジタル経済に関する規制がほぼないとして、一定の規制を設ける必要性に言及した(通商専門誌「インサイドUSトレード」2月13日)。1月には外国の敵対者に対して、個人のデータ販売を規制する大統領令が検討されていると報じられている(ブルームバーグ1月23日)。

一方で、民主党議員でも上院で通商を所管する財政委員会のロン・ワイデン委員長(オレゴン州)らはWTOやIPEFでの支持撤回を批判しているほか(2023年12月4日記事参照)、共和党の下院議員50人が1月下旬に、タイ代表に対してWTOでの支持撤回を批判する書簡外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを送っている。また、米商工会議所はUSTRのデジタル貿易交渉に関する独自の調査結果を公表している(2024年2月6日記事参照)。

WTOは第13回閣僚会議を2月26~29日にアラブ首長国連邦(UAE)で開催する。デジタル貿易に関する交渉も行われる見込みだが、米国内で意見が集約される見通しはたっていない。

(赤平大寿)

(米国)

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