米USTR、サプライチェーン強靭化への貿易・投資政策にパブリックコメント募集開始

(米国)

ニューヨーク発

2024年03月08日

米国通商代表部(USTR)は3月7日、サプライチェーンを強靭(きょうじん)化する貿易・投資政策の策定に資するパブリックコメントを募集すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同日付の官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公示した。

USTRは今回のパブリックコメント募集の背景として、サプライチェーンを強靭化する必要性を官報で説いている(注1)。まず、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻などによるサプライチェーンの寸断がもたらした消費財や医薬品の価格変動、インフレの要因となった製品不足などの影響を米国人は肌で感じてきたとした。また、グローバルサプライチェーンは短期的な効率性を最大化し、コストを最小化するように設計されてきたため、脆弱性の拡大や持続不可能な依存関係の構築へとつながり、さらには、労働基準や環境保護のような米国の中核的価値観を反映しない貿易を促進してきたと指摘した。そこで、バイデン政権はこれらを是正するために、「フレンドショアリング(注2)」や生産拠点を消費地の近隣国に移転する「ニアショアリング」を進めるとともに、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)、インフレ削減法(IRA)、インフラ投資雇用法(IIJA)などを用いて、米国の製造業の強化に努めてきたと述べた。

こうした優先度の高い政策を前進させるため、USTRはサプライチェーンを強靭化する貿易投資政策を立案しているとし、今回パブリックコメントを求めるとしている。具体的には、米国内産業の成長促進に資する内容から、バイデン政権が重視する労働や環境、自由貿易協定(FTA)、経済安全保障に関わる内容まで、合計12項目についてコメントを求めている。主な項目は次のとおり。

  • 米国の貿易・投資政策は、米国内向けインセンティブと連携して、どのように米国内の製造業とサービス業の成長と投資を支援できるか。
  • 米国の貿易・投資政策は、志を同じにする貿易相手国や同盟国間の信頼できるネットワークの中での労働・環境保護に関する協調と調整の強化を通じて、どのように好循環と「頂点への競争」(注3)を促進できるか。
  • FTAの特恵原産地規則が、協定に加盟しておらずに労働や環境に関する約束に拘束されない国の企業に利益をもたらす「裏口」として機能する懸念がある。どうすればこのリスクを下げ、締約国での生産を最大化できるか。
  • 企業はグローバル、また米国内での製造・調達を決定する際に、地政学的リスクをどのように織り込んでいるか。企業はサプライチェーンと調達を決定する際、トレーサビリティーと透明性をどのように考慮しているか。

特に意見を求める具体的な産業として、航空宇宙・同部品、農林水産業、自動車・同部品、コールセンター・ビジネスプロセスサービス(BPS)、電気自動車(EV)用・大規模エネルギー貯蔵用バッテリー向けを含む重要鉱物・リサイクル、金属、医薬品・医療品、半導体・マイクロエレクトロニクス・同材料、再生可能エネルギーの発電・送電・貯蔵(太陽光・風力関連技術とそれらへの投入物を含む)、繊維製品(糸・織物・アパレル・そのほかの完成品)を挙げた。

これらに対するパブリックコメントは連邦政府のポータルサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ID:USTR–2024–0002)から提出可能で、4月22日に締め切る。また、公聴会は5月2日に予定しており、証言の希望者は4月12日までに申し込む必要がある。

なお、通商専門誌「インサイドUSトレード」(3月7日)は、USTRがなぜこのタイミングでサプライチェーンを強靭化するためのパブリックコメントを求めるのか、提出されたコメントがどのように活用されるかについては、USTRの声明でも官報でも言及されていないと指摘している。

(注1)サプライチェーン強靭化については、米国の通商協定を巡る戦略にも表れている。2024年2月9日付地域・分析レポート参照

(注2)バイデン政権が唱える米国と同盟・友好国との間でサプライチェーンを多様化、強靭化する取り組み。

(注3)USTRのキャサリン・タイ代表は2023年6月、企業が効率性の最大化とコストの最小化を追求する中で、労働や環境保護の基準が低い国へのサプライチェーンの集中を招いたことを「底辺への競争」と批判しており、その結果、中国が重要な物資や技術の支配的な供給国になったとの見方を示している(2023年6月19日記事参照)。

(赤平大寿)

(米国)

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