タイ米USTR代表、通商政策の方針転換強調、サプライチェーン強化と労働者保護を優先

(米国)

ニューヨーク発

2023年06月19日

米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は6月15日、米国シンクタンクのオープンマーケット・インスティチュートが主催したイベントで講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、バイデン政権の通商政策がサプライチェーンの強靭(きょうじん)化に優先的に対応していると説明した。5月に国際経済政策に関して講演したジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)に続いて、自由貿易を重視する伝統的な通商政策からの方針転換を訴えた(2023年5月1日記事参照)。

タイ代表は、国家と経済の安全保障にとって、強靭なサプライチェーンが不可欠だと説いた。これは「危機や(供給の)途絶に対して、より容易かつ迅速に適応し、回復できる」生産体制の構築を意味すると述べ、多様な地域に供給網を広げる必要があると主張した。一方、従来の通商政策が進めてきた貿易の自由化は、企業が効率性の最大化とコストの最小化を追求する中で、労働や環境保護の基準が低い国へのサプライチェーンの集中を招いたと批判した。こうした「底辺への競争」の結果、中国が重要な物資や技術の支配的な供給国になったとの見方を示した。

タイ代表は、バイデン政権が関税削減・撤廃を含む自由貿易協定(FTA)の締結を回避しているのは、それが「われわれが今対処しようとしている問題そのものを助長する原因になっている」からだと言明した。伝統的なFTAは、協定で定めた労働や環境の義務に縛られない非締約国による「ただ乗り」を許し、不公正な競争を行う国を利することになると問題視した。

タイ代表は、新型コロナウイルスの感染拡大などが顕在化させたサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性を解決するために「貿易のための新しいモデル」が必要と唱えた。その例として、米国が主導するインド太平洋経済枠組み(IPEF)や経済繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)を挙げ、これらの取り組みにより、供給網を少数国に過度に依存するリスクを軽減すると強調した(2023年5月29日記事参照)。また、サプライチェーンの強靭性の基盤は労働者だとして、労働基準を引き上げるルール作りを行うことで、企業が雇用を国外に流出させるインセンティブを低下させると力説した。

タイ代表は、サプライチェーンの強靭性を高めることは、他国の経済的威圧行為への対抗策にもなると指摘した。日米など6カ国が6月9日に出した共同宣言で、グローバルな市場支配力を構築するために、非市場的経済政策を用いることに反対する立場を明確にしたと言及した(2023年6月13日記事参照)。

(甲斐野裕之)

(米国)

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