トランプ前米大統領、バイデン政権下の経済政策を批判する声明発表

(米国)

ニューヨーク発

2024年03月14日

米国のドナルド・トランプ前大統領は3月7日、自身の2024年大統領選挙キャンペーンのホームページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、ジョー・バイデン大統領の下での経済状況を批判するコメントを発表した。

同ホームページでは、次の点を列挙して批判した。

  1. インフレ率は就任時の2倍となり、就任以来、物価は17.9%、食料品価格は21%、家賃は19.4%、電気料金は28.6%上昇した(注1)。
  2. インフレが世帯収入の伸びを上回っているため、インフレ調整後の世帯収入の中央値は2019年から3,670ドル減少した(注2)。
  3. ブルームバーグによると、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始してから2023年7月までに中間層は2兆ドル以上の富を失った。
  4. クレジットカードの債務が1兆1,300億ドルに達し、同債務による経済的困窮に陥っている米国人の割合は2009年の大不況以来最高となっている(注3)。
  5. 住宅や借家の入手のしやすさは史上最低水準にある。また、ヘリテージ財団によると、金利上昇のため、住宅ローンの月々の支払額は就任時の2倍となっている(注4)。
  6. ハーバード大学のレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、家賃の水準は過去最悪で、コスト負担が過大とされる賃借人世帯は2,240万世帯となっている。
  7. USAトゥデーによると、上位1%が中間層よりも多くの資産を持っている(注5)。
  8. 議会の議決なしに学生ローンの免除を行っているが、学生ローンの40%は医師や弁護士など高度な学位を取得した学生が抱えるもので、「ブルジョアジーのための巨大な福祉プログラム」だ(注6)
  9. バイデン大統領の急進的な環境政策は、貧困層や中間層の米国人を犠牲にして、富裕層の電気自動車(EV)所有に補助金を出すもの。EV所有者の大多数は年間10万ドル以上を稼いでいる。EVは登録車両の1%未満であるにもかかわらず、充電ステーションへの投資に75億ドル以上を費やし、納税者に負担を強いている。

その上で、過去のトランプ政権下の経済上の実績や、トランプ減税や関税引き上げといった主要施策の成果を主張しつつ、「税金を下げ、給料を増やし、米国の労働者の雇用を増やすことが米国の経済復興に対するトランプ前大統領のビジョンだ」として、政権に復帰すれば、あらゆる環境にある米国民に経済的機会と繁栄をもたらし、インフレを低下させ、無駄な政府支出を削減するだろうと述べた。

今回の主張には、経済指標についてやや恣意的な解釈を行っていると考えられる部分や、学生ローンに関する記述などについて事実誤認と思われる部分も含まれてはいるものの、インフレや住宅に関しては、おおむね事実に沿ってバイデン政権の弱点をついたものとなっている。これらの点については、バイデン大統領も一般教書演説の中で、住宅コストの引き下げに関する新たな計画(2024年3月8日記事参照)を発表しているほか、シュリンクフレーション対策やジャンク手数料の排除(2024年3月11日記事参照)などを打ち出しており、大統領選で経済面の重要論点となってきそうだ。

(注1)いずれも消費者物価指数の2021年1月と2024年1月の数値を比較したもの。

(注2)米国勢調査局の発表した2019年と2022年の数値の比較。2022年はインフレ率がピークに達していた時期で、足元の状況を反映した数値ではないことに注意が必要。

(注3)ニューヨーク連銀が2月に出した2023年第4四半期(10~12月)の数値(2024年2月7日記事参照)。

(注4)連邦住宅貸付抵当公社(フレディ・マック)によると、住宅ローン金利(30年固定物)は2021年1月7日時点で2.65%、2024年2月29日時点で6.94%となっている。ただし、これは新規で借り入れを行った場合の金利負担であることに注意。過去に低金利で住宅ローンを組んだ者が住み替えによる金利負担上昇を嫌い、現在保有する住宅に住み続けている場合も多く、こうした者は金利高の影響を受けない(2024年2月7日記事参照)。このため、米国の世帯全体の動向を反映したものとは言えない可能性がある。

(注5)FRBのデータでは、2023年第3四半期(7~9月)の家計資産の所得階層別シェアは、上位1%が27.5%、上位1~10%が15.1%、上位10~50%が32.4%、下位50%が5.9%となっている。中間層の定義にもよるが、上位10~50%を中間層と定義した場合には、上位1%層の資産は中間層の資産よりも少ない。また、トランプ政権下の2017年から2020年までの上位1%層の資産シェアは27.2%で、両政権下での差は小さい。

(注6)現在、返済免除の対象となっているのは、連邦学生ローンプログラムの運用見直しや、新たな学生ローンプランへの移行に基づいて行われるものなどに限定されている。また、返済プログラムでは所得に応じて返済計画が立てられており、低所得者ほど有利な条件になっている(2024年2月22日記事参照)。

(加藤翔一)

(米国)

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