米自動車排ガスの新規制案、主要団体・企業が基準緩和を求めるコメントを提出

(米国)

ニューヨーク発

2023年07月13日

米国環境保護庁(EPA)は7月5日、乗用車と小型トラックを含むライトビークル(LDV)と中型車(MDV)の2027~2032年モデルを対象とした、温室効果ガス(GHG)と大気汚染物質の排出基準に関する規制案「2027年モデル以降のLDVとMDVに対する複数の汚染物質排出基準」(2023年4月21日記事参照)に対するパブリックコメントの募集を締め切った。2023年7月12日時点で、主要自動車メーカーを含む297件のコメントが公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされている。

規則案において、LDVの二酸化炭素(CO2)の排出基準は、最終年に当たる2032年モデルで、業界平均1マイル(約1.6キロ)当たり82グラム(82gpm)と提案されている。この基準値に適合させるため、米国の全車両に占めるバッテリー式電気自動車(BEV)の割合は、2030年時点で60%、2032年時点で67%に到達することが見込まれている。なお、EPAは規則案のほか、基準値に応じて代替案1~3を提案している(添付資料表参照)。

これに対して、自動車イノベーション協会(注1)は、パブリックコメントの中で、「最近の分析によると、2032年までにEPAの野心的な提案を満たすには、手頃な価格帯の車両や、家庭用および公共の充電インフラがはるかに不足している。自動車メーカー、労働者、消費者のニーズの全体を総合的に満たす明確な道筋も存在しない」などと指摘した。また、同協会は「EPAの水準はインフラ投資雇用法やインフレ削減法の支援策を適用して達成可能となる、自動車業界が示した水準を大幅に上回っている」と述べている。また、CO2排出量の大幅削減を達成できる分野として液体燃料を挙げ、EPAに対して、石油業界と協力して液体燃料の粒子状物質指数と炭素強度を下げるよう求めた。

トヨタも、提出したパブリックコメントの中で、「EPAが掲げるBEV普及率は、米国外で生産される鉱物や充電インフラの不足など、メーカーがコントロールできない要因に依存している」と述べ、基準値の改定を求めた。また、同社は「この規則案は、プラグインハイブリッド車(PHEV)を差別し、恣意(しい)的にユーティリティファクター(UF、注2)を引き下げている」と主張し、PHEV技術の進展を妨げるものと主張した。

フォードは、2032年モデルの最終目標(82グラム)を支持する一方、2027~2029年モデルの低減率をよりなだらかに設定した代替案3の採用を要請し、「規則案では、EVサプライチェーンと製造基盤の規模拡大が追い付かず、2027~2029年モデルの基準値の達成は不可能だ」と述べている。

一方で、テスラは、2032年モデルにおけるBEV普及率に関して、規則案を上回る69%以上となるよう提案し、2032年モデルのCO2排出量を72グラムとする、最も厳しい代替案1を支持した。さらに、オフサイクルクレジット廃止やPHEVのUFの見直しなど、BEV普及をさらに推進するよう、複数の見直し案を提示している。

(注1)2020年1月に、ゼネラルモーターズ(GM)など米国系メーカーやトヨタなどをメンバーとする米国自動車工業会(AAM)と、ホンダや韓国の現代自動車など外資系メーカーをメンバーとするグローバル・オートメーカーズが統合して設立された。

(注2)プラグイン走行時のエネルギー消費効率とハイブリッド走行時のエネルギー消費効率の合算時の重み付け係数。これは、CO2の低減効果はあるが試験には反映されない技術に対するクレジットのオフサイクルクレジットに影響する。

(大原典子)

(米国)

ビジネス短信 cd0d05dc8c776785