英国ロボットアーム研究所長に聞く今後の展望、日英のさらなる連携に期待

(英国、日本)

ロンドン発

2024年03月15日

英国では、核融合や原子力関連の新技術の開発・研究については、英国原子力公社(UKAEA)が主導している。研究の一環として、核融合や原子力施設の廃止措置自動化などへの応用を念頭に置いたロボットアームの研究が進められている。この研究を手掛けるのがUKAEAのロボティクス研究部門のRACE(Remote Applications in Challenging Environments)だ。今回、RACEを訪問し、ロブ・バッキンガム所長にヒアリングを実施。同技術の今後の展望や課題などについて聞いた(インタビュー日:2024年1月5日)。

日本との強固なエコシステム構築に期待

RACEでは、LongOpsと呼ばれる、廃止措置でのロボットアームやリモート技術の利用に向けた日英の共同研究プログラムが進められている。LongOpsは、現在廃止措置が進められている英北西部のセラフィールド再処理施設を傘下に置く英国原子力廃止措置機関(NDA)と、英国研究・イノベーション機構(UKRI)、東京電力ホールディングス(HD)の共同出資によるプロジェクトだ。東京電力HDは福島第1原子力発電所の廃止措置推進に向けて、過酷な環境下でのロボット遠隔操作に貢献する研究開発をRACEと共同で行っている。

RACEのバッキンガム所長は、英国の2050年ネットゼロ目標の達成に向けた原子力や核融合の必要性に言及。UKAEAのカラムキャンパス内にある欧州トーラス共同研究施設(JET)では、核融合によるエネルギー出力量の記録更新を重ねているが、発電の商業利用の実現に向けては、さらなる高度化と投資が求められると説明した。

併せて、廃止措置や核融合開発など、困難な環境での技術革新の重要性を強調した。その実現に向けては、日英間の原子力関連のパートナーシップ(2023年5月19日記事2023年9月7日記事参照)に焦点を当て、両国にメリットをもたらす強固なエコシステムの構築が重要と述べた。具体的には、特に活発な民間投資・ファイナンス支援や、経済安全保障を念頭に置いたサプライチェーンの構築などを挙げた。

同氏は、福島国際研究教育機構(F-REI)が廃炉向け遠隔ロボット技術の研究を手掛けている点に着目し、関心を寄せるとともに、原子力関連の研究開発での産学官連携の重要性も強調した。なお、英国の産学官連携の事例としては、2023年6月にUKAEAが核融合発電施設のプロトタイプ開発に向けた人工知能(AI)などのデジタル技術活用を発表している(2023年6月30日記事参照)。また、廃止措置向け共同研究プロジェクトとして、Robotics and Artificial Intelligence Collaboration((RAICo、注)が挙げられる。

なお、JETは2023年12月に稼働を終了、廃止措置が今後進められる。2月26日には、世界最先端の遠隔操作システムの導入など、核融合施設の再利用・廃止に関する新技術やスキルの開発の拠点となると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした 。核融合の商業利用に向けては「STEP」(2023年2月16日記事参照)がUKAEAのメインプロジェクトとなる。

写真 説明するバッキンガムRACE所長(ジェトロ撮影)

説明するバッキンガムRACE所長(ジェトロ撮影)

(注)UKAEA、NDA、セラフィールド、マンチェスター大学による、原子力や核融合施設の廃止措置に特化したロボット工学、AI技術の研究開発プロジェクト。

(菅野真)

(英国、日本)

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