英国排出枠価格、EU排出枠価格に対して下落、地政学的・政策的要因が背景

(英国)

調査部欧州課

2024年03月14日

英国のロンドン証券取引所(LSEG)は2月8日、2023年の世界の主要炭素市場の動向を取りまとめた報告書「炭素市場年次レビュー 2023年(Carbon Market Year in Review 2023)」を発表した。これによると、英国排出量取引制度(UK ETS)での2023年の英国排出枠(UKA、注)の平均価格は2022年に比べて34%下落し、約65ユーロとなった。これは、EU排出量取引制度(EU ETS)のEU排出枠(EUA)価格を平均して約22ユーロ下回る水準で、両者の価格が大きく乖離したことを示している(添付資料図参照)。

また、取引量は、5億2,900万UKAがスポットまたは先物市場で取引され、有償オークションで売却された7,873万UKAを合わせると、英国全体で約6億773万UKAが取引された(相対取引を除く)。UKAの市場取引量は2022年比19%増で、取引開始から3年目を迎え、市場の流動性が緩やかに高まっていると評価している。一方、2023年全体の取引高は2022年から22%減少して約363億5,300万ユーロとなった。

ロンドンに拠点を置く気候シンクタンクE3Gのチーフ・オブ・スタッフのジョニー・ピーターズ氏は、UKAとEUAの価格の乖離について、英国とEUの地政学的、政策的な要因が大きいと指摘した。

ジェトロの同氏へのインタビュー(2月20日)の概要は次のとおり。

「地政学的には、ロシアのウクライナ侵攻とその結果生じたエネルギー危機が英国とEUに与えた影響の違いが大きい。英国は2024年9月末までの国内石炭火力発電所の廃止(2021年7月7日記事参照)など、国内電力部門の脱炭素化の軌道を維持した一方、EUと比較して工業生産は低迷し、UKA価格の下落圧力が高まった。対して、EU、ウクライナ侵攻により、ドイツなどで多くの石炭火力が一時的な再稼働を余儀なくされるなど、電力部門の脱炭素化が遅れたが、工業生産はある程度維持されたことで、EUA価格に対する上昇圧力が働いた。政策的な違いとしては、EUのEU ETSの改正(2023年5月12日記事参照)や、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)の早期導入(2023年8月31日付地域・分析レポート参照)など、欧州グリーン・ディールを一貫して推進しているのに対し、英国政府の7月のUK ETS改革案(2023年7月7日記事参照)は市場から消極的と見なされ、UKA価格を相対的に低く抑えている。また、この分野の政策的アプローチは英国の次期総選挙で保守党、労働党のどちらが政権を取ろうとも、あまり大きな差はないだろう」

2022年までUKA価格はEUA価格を上回っていたが、2023年に逆転した。UKA価格がEUA価格を下回る状況が続くことで、EU CBAMによる英国からEUへの輸出品に対するコスト負担の増大が懸念される。

(注)1排出枠当たりの温室効果ガス(GHG)排出量は1トン〔二酸化炭素(CO2)換算〕。

(奈良陽一)

(英国)

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