EU、気候変動対策パッケージ「Fit for 55」の重要法案を正式採択

(EU)

欧州課

2023年05月12日

EU理事会(閣僚理事会)は4月25日、2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」(注1)に関する5つの法案を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。主に、EU排出量取引制度(EU ETS)の改正指令案(2021年7月16日記事参照)や、炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)の設置に関する規則案、その関連法案などで、EU理事会と欧州議会は2022年末に政治合意していた(2022年12月20日記事2022年12月14日記事参照)。今回採択された法案の内容は次のとおり。これらの法案は官報に掲載後、施行される。

(1)EU ETS改正指令:2030年までに2005年比で43%減としていた排出量目標を62%減に引き上げる。また、これまで脱炭素が難しいとされてきた建物や道路輸送、その他の小規模産業の排出量削減を費用対効果よく実施するため、EU ETSとは別の排出量取引制度を設立する。建物・道路輸送などの分野への適用は2027年以降とする予定だが、燃料費が高騰した場合、2028年に延期される可能性もある。

(2)測定・報告・検証(MRV)海運規則の改正:EU ETSに海運部門が追加され、今後、海運会社は排出量に応じた排出枠を購入する。MRV海運規則の対象となっている5,000トン以上の船舶は、2024年から検証済みの排出量の40%を、2025年から70%をEU ETSの対象とし、2026年からは100%導入する。5,000トン未満の一般貨物船舶に関しては、2025年からMRV海運規則の対象とした上で、2026年にEU ETSの対象にするかについて、欧州委が2024年12月末までに実施するレビューに基づき、あらためて判断する。

(3)航空部門へのETS適用に関する改正指令:欧州経済領域(EEA)内(注2)の航空便については、航空部門に割り当てられた無償割り当てを段階的に削減し、2026年から全てオークション方式に移行する。EEA内外間の航空便についても、EU域内を拠点とする航空会社を対象に国際民間航空機関(ICAO)が採択した「国際民間航空のためのカーボン・オフセットと削減スキーム(CORSIA)」の導入を開始する。

(4)社会気候基金の設立規則:建物や道路輸送分野などにETSを導入するに当たって、一般消費者に与える影響を考慮し、脆弱(ぜいじゃく)な市民や零細企業を支援するための「社会気候基金」を設置する。同基金は2026年から2032年まで設置され、新たに導入するETSの収入を主な原資(最大650億ユーロ)とし、加盟国による拠出金も充当する。各加盟国は同基金を利用し、建物のエネルギー効率改善のための改装や、低排出車の導入促進に向けた措置の実施、脆弱な市民や零細企業に対する直接的な収入支援などを提供する。

(5)炭素国境調整メカニズム(CBAM)設置規則:CBAMは、EUのカーボンリーゲージ(規制の緩いEU域外への製造拠点の移転や域外からの輸入増加)対策。EU域内の事業者がCBAM対象製品を域外から輸入する際、域内で製造した場合にEU ETSに基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付ける。2025年末までは対象製品を輸入する事業者に対する報告義務のみが適用される。その後、改正EU ETSによって無償割り当てが段階的に廃止されるのに伴い、CBAMが段階的に導入される。対象製品はセメント、アルミニウム、肥料、電力、水素、鉄・鉄鋼のほか、塊成化された鉄鋼石、フェロマンガン、フェロクロム、フェロニッケルなどの前駆体材料の一部、鉄・鉄鋼製のねじやボルトなどの対象製品を原料とした製品の一部が含まれる。

(注1)詳細はジェトロの調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向」(2021年12月)を参照。

(注2)EEA内を離着陸する航空便と、EEA発スイス・英国着の航空便が対象。

(江里口理子、土屋朋美)

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