2024年予算が越年で成立、5年ぶりに債務ブレーキ適用、気候変動対策は小幅減

(ドイツ)

ベルリン発

2024年02月08日

ドイツ連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)は2月2日、2024年の連邦予算を可決、承認外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。連邦憲法裁判所が2023年11月15日、ドイツ連邦政府が新型コロナウイルス感染症対策のために確保した予算枠の未使用分600億ユーロを気候変動対策に転用したことが基本法(憲法に相当)に違反すると判示したことを受けて、連邦政府は2024年予算の見直しを迫られ、2023年中に予算を成立させられずにいた。

2024年予算は総額4,768億ユーロと前年から3.4%増加したが、当初案より歳出を抑えるとともに歳入を増加させて、新規債務による借り入れを390億ユーロに抑えた。基本法で定める「債務ブレーキ」(新規債務による借り入れをGDPの0.35%までに抑える)を新型コロナ禍の影響で2020年から停止していたが、5年ぶりに適用する。

新たな財源を捻出するため、具体的に次のような措置を講じる。

  • 2024年4月末に廃止予定だった電気・ガスなどの上限価格設定(価格ブレーキ)(2022年12月6日記事参照)を2023年末に前倒しで廃止。
  • 2024年の国内の化石燃料に対する二酸化炭素(CO2)排出量取引(注)における1トン当たりのCO2価格を、当初予算案での40ユーロから45ユーロに引き上げ(2023年は30ユーロ)。
  • 2024年5月から航空税の税率を引き上げ。
  • 2023年の洋上風力入札に係る収入の一部を連邦予算に繰り入れ。
  • 2024年3月から農業用ディーゼルへの税制優遇措置を段階的に縮小、2026年に廃止。

農業用ディーゼルへの税制優遇措置の廃止については、農家が大規模なデモを行うなど大きな反発が出ていたが、即時廃止から段階的廃止とした一方で、廃止自体は撤回しなかった。

気候・変革基金は大枠を堅持も、モビリティ分野を中心に減額

特に注目されていた気候・変革基金(KTF)は、前述のとおり2024~2027年の合計で600億ユーロの財源が欠けるかたちとなっていた。2023年8月に閣議決定された当初案の2,118億ユーロ(うち2024年は576億ユーロ、2023年8月23日記事参照)を約1,900億ユーロ(うち2024年は約490億ユーロ)とし、これまでの見込みより小幅な減額にとどまった。

KTFのうち中核的プロジェクトとされる予算措置は維持された。具体的には、水素、半導体、蓄電池などへの支援は、当初案が完全に維持された。また、化石燃料暖房交換補助金(2023年10月17日記事参照)も早期交換による追加補助率が減少したものの基本的に維持されたほか、産業向けの水素利用などを促すと期待される「気候保護契約」に係る予算もほぼ維持された。

KTFにおいて当初案が維持された主な措置:かっこ内は2024年予算額。

【完全に維持】

  • 再生可能エネルギー(再エネ)賦課金(EEG賦課金)廃止に伴う支援(2024年予算額:106億ユーロ)
  • 製造業など向け電気料金支援パッケージを構成する電気料金補償(39億ユーロ)
  • 水素の調達、輸送・貯蔵、利用の促進(29億ユーロ)
  • 半導体工場立地支援を含む半導体生産支援(48億ユーロ)
  • 蓄電池工場立地支援を含む蓄電池生産支援(5億ユーロ)

【ほぼ維持】

  • 化石燃料暖房交換補助金を含む建物のエネルギー効率化・再エネ促進など(167億ユーロ)
  • 電気自動車(EV)用充電インフラなどの設置補助(19億ユーロ)
  • 気候保護契約〔炭素差額決済(CCfD)〕の実施など(7億ユーロ)

一方、当初案から削除された措置には、バッテリー式電気自動車(BEV)購入補助金(環境ボーナス)がある。予定より1年前倒しの2023年12月で廃止された(2023年12月25日記事参照)。欧州域内でEV市場を牽引するドイツは、2030年までに1,500万台のBEVを普及させる目標を掲げるが、補助金の廃止によりBEV販売の大きな減速が懸念される。また、ドイツ鉄道の鉄道網近代化支援への支出も取りやめ、代わりに政府が保有する同社の株式の売却によって別途財源を手当てする。

(注)EUの排出量取引制度(EU ETS)では対象外の、熱利用・運輸で使用される化石燃料を対象とするドイツ独自の排出量取引制度。2021年に導入され(2019年10月1日記事参照)、対象燃料の拡大とCO2価格の引き上げが行われてきた。

(日原正視)

(ドイツ)

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