米USTR、中国の不公正貿易慣行に対し、WTO外での多面的アプローチの重要性を引き続き強調

(米国、中国)

ニューヨーク発

2024年02月27日

米国通商代表部(USTR)は2月23日、2023年の中国によるWTO協定順守に関する報告書を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。この報告書は、2001年の中国のWTO加盟以降、米国の国内法で連邦議会への提出が毎年義務付けられているもので、報告書の公表は今回で22回目となる。2023年の報告書は、(1)中国のWTO加盟国としての評価、(2)中国の課題に対する過去の取り組み、(3)今日の中国の課題、(4)米国の対中通商政策、(5)中国の不公正貿易慣行の具体例の5部で構成されている。

2023年版の報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)では、これまでの報告書と同様に、中国は非市場経済的な慣行を続けており、WTOルールの順守が不十分と結論付け、米国はWTO外も含めた新しいより効果的な戦略を追求していると述べている(2023年2月28日記事参照)。前回と同様、非市場経済的な慣行は縮小するどころか拡大しているとし、それが生み出す重商主義が、米国やWTO加盟国の企業や労働者に対して、深刻な不利益を与えてきたとした。中国の経済システムは、「中国株式会社」や「中国共産党株式会社」と称されているとし、中国外の企業は、中国企業だけでなく中国政府との競争も強いられていると批判した。また報告書では、中国政府による、「生産能力や輸出量、市場シェアの目標設定など、中国企業による特定の産業の支配を目標とする産業計画の採用」といった、中国国内および世界市場の独占のために行っている23の具体的な非市場経済的慣行を列挙している。

これら課題に対して、報告書では、WTOは効果的に対処できておらず、WTOの紛争解決機能では中国の行動を根本的に変えることはできないと述べている(注1)。そこで米国は、WTOの枠組みを活用しながらも、現在の米中貿易関係の現実を反映した多面的なアプローチを追求しているとし、主要な方針として次の4つを挙げている。

  • 対米投資の奨励。米国内産業に投資し、それを支援する政策を構築するための措置を講じることが極めて重要だ。今日までにとられた重要な措置には、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)、インフレ削減法(IRA)、インフラ投資雇用法(IIJA)の成立などがある。
  • 中国への2国間関与の追求。特定の問題に焦点を当てた対話を再開することよりも、報告書で述べているような米国の最も根本的な懸念である、中国の国家主導、非市場的な経済・貿易慣行に焦点を当てて解決を図る。
  • 米国内の貿易ツールの活用。米国の労働者と企業にとってより公平な競争条件を確保するためには、1974年通商法301条など、今日の現実を反映した国内貿易ツールの必要性は明らかだ。
  • 同盟国や友好国との連携。中国の非市場経済的慣行に対する解決策への支持を構築するためには、同盟国などと緊密かつ広範に協力することが極めて重要だ。これは現在進行中であり、2国間、地域間、WTOを含む多国間の場で行われている(注2)。

なお報告書では、非市場経済的慣行への解決策として、米国は中国とのデカップリングは望んでおらず、輸出管理や対外投資規制など米国の安全保障を守るための措置は、デリスキングや多様化に基づいて行われている、とこれまでのバイデン政権の姿勢も述べられている。

(注1)WTOの紛争解決制度は、米国による新委員の選任拒否などにより、上級委員会の委員数が審理に最低限必要な3人を割ったことで、2019年12月以降、機能停止に陥っている(2023年8月29日付地域・分析レポート参照)。

(注2)報告書では、近年の中国の経済的威圧行為などにより、米国と米国の貿易相手国の間で、中国との通商関係に対してより現実主義的にアプローチする必要性がある、との意見が収斂(しゅうれん)してきていると述べている。

(赤平大寿)

(米国、中国)

ビジネス短信 198bb059c6051f1c