欧州委、投資・輸出規制イニシアチブを発表、経済安保政策パッケージの一環

(EU)

ブリュッセル発

2024年01月29日

欧州委員会は1月24日、経済安全保障に関する政策パッケージ(2024年1月29日記事参照)における投資・輸出に関するイニシアチブとして、対内直接投資審査規則(2020年10月13日記事参照)の改正案と二重用途物品の輸出規制(注)に関する白書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

これらは、各加盟国が実施する規制に関して、EUレベルでさらなる調整を図ることで、経済安保の強化を目指すもの。現行の対内直接投資審査規則や二重用途物品に関する輸出管理規則では、各加盟国が安全保障の観点からEUの枠組みに基づき審査し、承認・認可の可否を判断する。欧州委は、これら規則の実施において、加盟国間でばらつきがあることを問題視しており、加盟国間でより一貫した対応が必要だとしている。ただし、安全保障は加盟国の専属的な権限であることから、今回のイニシアチブはEUレベルでの承認・認可の可否を判断する制度の導入を検討するものではない。

対内直接投資審査規則の改正案の要点は、加盟国に対する投資スクリーニング制度の導入義務化、審査対象となる外国投資の定義の拡大、全加盟国が共通して審査すべき投資分野の設定だ。現行規則ではスクリーニング制度の導入は任意で、現時点で導入されているのは21カ国にとどまる。導入を義務化することで、規制の抜け穴をなくしたい考えだ。

外国投資の定義に関しては、現行規則では投資先の経営に影響を及ぼさないポートフォリオ投資を除く、あらゆる外国直接投資が審査対象とされている。改正案ではこれに加えて、域外企業が域内に設立した子会社を通じて行う域内投資も審査対象とする。また、審査が義務付けられる分野に関しては、輸出管理規則が規定する二重用途物品や経済安保上重要な技術(2023年10月6日記事参照)などを共通審査対象分野として新たに規定する。スクリーニング制度の最低要件として、審査が義務付けられていない分野の投資であっても、投資完了後15カ月以内であれば、加盟国が審査を開始することを可能にすることも求められる。

このほか、改正案は欧州委・加盟国間の協力メカニズムを強化する。現行規則では、外国直接投資の審査を実施しない加盟国や欧州委が、審査を実施する加盟国に対して、当該投資に関する意見の発出を認める協力メカニズムを規定している。改正案は、協力メカニズムにおいて、他の加盟国や欧州委の意見を最大限考慮することを求めるなどの手続き規定を追加する。審査を実施する加盟国の承認権限に配慮しつつ、欧州委・加盟国間でより効果的な相互審査を導入することで、スクリーニング制度の一貫性のある実施を図りたい考えだ。2024年6月に欧州議会選挙が予定されていることから、改正案の実質的な審議は2024年秋以降になるとみられる。

二重用途物品の輸出規制に関して欧州委は、短期的な措置として、輸出に際し認可の取得が求められる二重用途物品リストの拡大に向け、輸出管理規則の付属書の改定を提案する方針だ。また、加盟国間での輸出規制の調整強化に向け新たな協議の場を設置する。このほか、2025年第1四半期をめどに輸出管理規則自体の評価も実施する。

域外投資への規制導入には慎重な姿勢を示す

欧州委は、EU企業による域外国への投資の規制に関する白書も発表した。対外投資規制は、欧州委が2023年6月に発表した経済安保戦略(2023年6月23日記事参照)において、導入の可能性を明らかにしたものだが、同白書は、規制の要否含め、規制の在り方を段階的に検討すると述べるにとどめている。欧州委は、規制に関して複雑かつ綿密な分析が求められる内容であり、制度設計に必要なデータも十分にないとしており、慎重な姿勢を示した格好だ。今後、パブリックコンサルテーション(公開諮問)を実施し、域外投資に関するモニタリングを1年間実施することを加盟国に求める。その上で評価を実施し、2025年秋をめどに結果を発表するとしている。

(注)二重用途物品の輸出規制の詳細は、ジェトロの制度情報「EU貿易管理制度 輸出品目規制PDFファイル(307KB)」を参照のこと。

(吉沼啓介)

(EU)

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