EU、長期契約によるガス価格依存軽減を目指す電力市場改革法案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月18日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月14日、電力市場改革法案に関して暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUでは、2021年夏以降のエネルギー価格の高騰や2022年のエネルギー危機により、企業の競争力低下が懸念されている。改革法案は、長期契約などの促進により電力価格の低下と安定化を図るものだ。

現行の電力市場の枠組みでは、電力価格は天然ガス価格と実質的に連動していることから、電力価格が現在も比較的高い水準で推移している(2023年11月7日記事参照)。欧州委員会は、改革法案に関して、電力の価格決定メカニズムを変更するものではないものの、長期契約の利用により、天然ガスより安価な再生可能エネルギー(再エネ)の発電コストを電力価格に反映させることで、天然ガス価格への依存を安定的に低下できるとする。これにより、電力価格の急騰から消費者や企業を保護するとともに、再エネの整備を加速させたい考えだ。改革法案は、欧州委が2023年3月に提案したもので(2023年3月16日記事参照)、今回の合意によりEU理事会と欧州議会による正式な採択を経て、施行される見込み。なお、現時点で合意された法文案は公開されていない。

今回の合意では、電力購入契約(PPA)と呼ばれる長期契約を推進するにあたり、課題となっている企業の信用リスクを解決すべく、企業が市場ベースでの保証を得られることを加盟国に対して義務付ける。また、任意の標準契約条項も導入する。

消費者および小規模企業に対しては、価格変動型だけでなく、固定価格型での契約を可能にすることを保障する。また、エネルギー価格の急騰などの緊急事態に、EU理事会が欧州委の提案に基づき「危機」を宣言する制度を創設することでも合意。宣言時には、脆弱(ぜいじゃく)な消費者に加え、中小企業やエネルギー集約型産業の企業などに対する暫定的な措置として、加盟国が電力価格を設定できることが確認された。

二重のCfDの対象に原子力を含めることで合意、石炭火力への補助金期限の延長も容認

焦点となっていた二重の差額決済契約(Contract for Difference、CfD、注)については、適用対象に再エネとともに原子力を含めることで合意した。現地報道によると、二重のCfDの適用方法は、EU理事会案(2023年10月20日記事参照)におおむね沿った内容となった。政府が事業者から得た差額の最終消費者への還元については、国家補助規制の制約の下、直接的あるいは間接的な方法から加盟国が決定することができる。二重のCfDは、改革法案の施行3年後から適用される。

また、中長期における電力の安定供給の確保を目的に、加盟国による発電事業者への補助金を認める「容量メカニズム」に関しては、現行法で2025年6月末までとなっている石炭火力への補助金の提供期限を、3年半延長する例外規定を導入することでも合意した。現地報道によると、これは石炭火力に依存するポーランドなどの加盟国が求めていた。

(注)CfDは通常、再エネ電力の市場価格が一定の下限価格を下回った場合に、政府が再エネ事業者にその差額を補填(ほてん)するものだが、二重のCfDでは、下限価格に加えて上限価格も設定し、市場価格が上限価格を上回った場合に、その差額を事業者が政府に支払う。

(吉沼啓介)

(EU)

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