2022年のインフォーマル経済はGDP比24.4％、前年比0.4ポイント上昇

メキシコの国立統計地理情報院（INEGI）は12月18日、「2022年のインフォーマル経済」（注1）に関するレポートを発表した。これによると、2022年のインフォーマル経済がGDPに占める比率は24.4％に達し、前年比で0.4ポイント上昇した。インフォーマル経済のうち、事業所が非合法な「インフォーマル部門」（注2）がGDPに占める比率は13.3％で、前年比0.3ポイント増、「その他インフォーマル」（注3）が11.1％（同0.1ポイント増）となる。

インフォーマル経済の総付加価値（注4）の産業別構成比率をみると、小売業が最も多くて28.7％、建設業14.4％、製造業13.9％、農林水産業11.4％と続く。「インフォーマル部門」の総付加価値の構成比をみると、露天商や行商人などの小売業が43.7％と圧倒的に多く、建設業24.5％、製造業12.8％と続く。「その他インフォーマル」では農林水産業が25.0％と最多となっており、自給自足的な農業事業者が多いことがわかる。卸売業15.5％、製造業15.2％、小売業10.9％と続く。これらの業種を中心に、合法的事業所でも非合法な就労形態で働く労働者が一定程度存在することがわかる。

全就業人口に占めるインフォーマル就労者の比率をみると、2022年時点でも就業人口の半数以上（55.4％）が徴税対象にもなっておらず、社会保険ネットワークのないインフォーマル就労者だ。55.4％の内訳としては、「インフォーマル部門」28.3％、「その他インフォーマル」27.1％。

2005年以降の推移をみると、2022年のGDP比24.4％という比率はリーマン・ショック後の2009年の24.2％を上回り、統計を取り始めて以来最高値となっている。これは「インフォーマル部門」自体の比率が上昇したことを反映している（添付資料図参照）。他方、全就業人口に占めるインフォーマル就労者の比率は、2012年の60.1％をピークに低下傾向にあるが、税務の電子化（注5）などの影響により、「その他インフォーマル」でインフォーマル就労者が減少したことが背景にある。

求められる労働市場の正規化に向けた政策

2018年12月に発足したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール現政権下で、インフォーマル経済は縮小するどころか拡大傾向にある。インフォーマル経済がGDPに占める比率は、2018年時点の22.8％と比較すると、2022年までに1.6ポイント上昇した。現政権下で低所得層に対する福祉政策が拡充されているものの、補助金などを需給するために就労形態の正規化は求められないため、インフォーマルな就労を改めるインセンティブにはならない。

インフォーマル経済は国の税収にも社会保険制度にも貢献していないため、緊縮財政下では限られた合法的な事業所や正規労働者に徴税が集中する傾向があり、限られた層に重い負担となっている。また、有給休暇の増加や最低賃金の引き上げ、将来的な労働時間の短縮などは正規労働者にのみ適用されるため、国全体としての労働環境の改善には、労働市場の正規化に向けた抜本的な対策が不可欠といえる。

（注1）ILOが2012年10月31日に公式に発表したマニュアルに準じるかたちで、INEGIが四半期ごとの全国就業雇用調査（ENOE）の中で発表している「インフォーマル就労者」によって生み出される経済活動のこと。詳細は2023年2月15日付地域・分析レポート参照。

（注2）家計から独立した事業所としての形態を伴わない露天商や行商人など、いわゆる非合法の事業所で働く労働者を「インフォーマル部門」の労働者と定義する。事業所の側面から見た分類。

（注3）インフォーマル部門以外の合法的な事業所に雇用されている労働者でも、雇用契約の締結や社会保険登録がされておらず、当該雇用が法的枠組みによる保護を受けていない場合、当該労働者を「その他インフォーマル」の就労者と定義する。

（注4）政府統計の総合窓口（e-Stat）によると、総付加価値とは、産出高から中間消費を差し引いたもので、個々の生産者、産業またはセクターによるGDPへの貢献額を示す。英語ではGROSS VALUE ADDED（GVA）、スペイン語ではValor Agregado Bruto（VAB）。

（注5）2014年以降、従業員への給与の支払いはインターネット税務証憑（しょうひょう、CFDI）による裏付けが必要となり、裏付けがない支払いは企業にとって損金算入の対象とならなくなった。CFDIを発行するには、従業員の連邦納税者登録（RFC）や社会保険登録が必要になるため、企業内部のインフォーマル就労者が減少することとなった。

（中畑貴雄）