イエレン米財務長官、インド太平洋地域との貿易拡大やサプライチェーン多様化を強調

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年11月09日

米国のジャネット・イエレン財務長官は11月2日、米国シンクタンクのアジア・ソサエティ政策研究所(ASPI)が主催したイベントで、バイデン政権のインド太平洋地域に対する経済戦略について講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。11月中旬に米国サンフランシスコで開催されるAPEC首脳会議を前に、米国のインド太平洋地域への関与を強調した。

イエレン長官は「経済的結びつきが米国のインド太平洋地域へのアプローチを支えている」とし、「米国がインド太平洋に背を向けているという主張は全く根拠がない」と言明した。その上で、同地域における米国の経済戦略を形作る優先事項として、(1)貿易・投資の拡大、(2)経済的強靭(きょうじん)性の強化、(3)グローバルな課題での協力を挙げた。

(1)貿易・投資の拡大については、インド太平洋の急速な成長に伴って米国にとっての輸出市場も急拡大すると言及し、輸出増が米国内での生産促進や雇用創出につながるとの期待を示した。(2)経済的強靭性の強化に関しては、信頼できる同盟・パートナー国との間でサプライチェーンを多様化する「フレンドショアリング」を追求していると説いた。その影響は既にデータに現れ始めており、自動車部品や電子機器などで、米国はインドやベトナム、メキシコからの輸入を増やす一方、中国への依存度を下げていると紹介した。(3)グローバルな課題での協力では、気候変動に対処するため、インド太平洋地域のエネルギー移行を支援していく考えを示した。

イエレン長官は、これらの優先事項を多国間や2国間の関与を通じて推進していくと主張した。多国間協力では、日米、オーストラリア、インド4カ国によるクアッド(QUAD)や、インド太平洋経済枠組み(IPEF)で実質妥結したサプライチェーン協定(2023年9月11日記事参照)などを例示した。

インド太平洋地域の国との2国間関係については、まず中国を取り上げた。イエレン長官は「両国経済の完全なデカップリングや、インド太平洋諸国を含む各国が(米中の)どちらかの側に立つよう強要されるようなアプローチ」は、グローバルサプライチェーンの複雑さを考えると、単純に現実的ではないと断言した。その代わり、米国は国内投資と同盟・パートナー国との関係強化により「デリスキングと多様化を図っている」と唱えた。中国との関係のほか、ベトナムとの半導体産業に関する連携(2023年9月19日記事参照)や、インドとの重要・新興技術分野の協力(2023年6月23日記事参照)にも触れた。

イエレン長官は経済面での対中政策に関し、国家安全保障上の利益確保と人権の促進、健全な経済関係、地球規模の課題での協力という、4月の講演で示した3つの方針を繰り返した(2023年4月21日記事参照)。これらの目標の達成には中国との深く持続的なコミュニケーションが必要だとして、中国との対話の維持を訴えた。APEC首脳会議では、対面での米中首脳会談が見込まれている。米国ホワイトハウスの副報道官は11日1日、米中両国は首脳会談の開催で原則合意しており、詳細な計画を詰めている最中と記者団に説明している。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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