EU、重要原材料法案で政治合意、中国依存軽減を狙う

(EU)

ブリュッセル発

2023年11月17日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は11月13日、米国や中国に対抗するEUの域内産業政策である「グリーン・ディール産業計画」(2023年2月3日記事参照)の一環として、欧州委員会が提案した重要原材料法案(2023年3月22日記事参照)に関して、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委が最重要法案の1つに位置付ける同法案(2023年9月14日記事参照)は、3月の提案から約8カ月という速さでの政治合意となった。同法案は今後、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て、施行される見込み。ただし、現時点では合意された法文は公開されておらず、要点のみが明らかにされている。

EUは多くの原材料の供給を中国など一部の域外国に大きく依存しており、同法案はこうした域外依存を軽減させる狙いがある。同法案は、温室効果ガスの排出ゼロに貢献する技術(ネットゼロ技術)やデジタル化などにおいて経済的重要性が高く、供給リスクのある原材料を「重要原材料」(特に重要かつリスクの高い原材料を「戦略的原材料」)に指定し、2030年までに達成すべき域内での採掘・加工・リサイクルの各ベンチマーク(努力目標)を設定する。その上で、目標達成に貢献する原材料の採掘・加工・リサイクル事業を「戦略的事業」に認定し、許認可プロセスを簡略化、迅速化する。

今回の政治合意では、欧州委提案をおおむね維持しつつ、一部修正が加えられた。主な修正点は次のとおり。

  • 欧州委提案に加えて、アルミニウムを「重要原材料」および「戦略的原材料」に指定する。
  • 人造黒鉛についても当面の間、「重要原材料」および「戦略的原材料」に指定する。現地報道では、EUは黒鉛の9割以上を中国からの輸入に依存する中、中国が黒鉛の輸出規制の実施を決定したこと(2023年10月26日記事参照)が背景にあるとしている。
  • 戦略的原材料の2030年リサイクル目標は、欧州委提案である域内年間消費量の15%から25%以上に引き上げる。現地報道は欧州議会の交渉担当者の話として、欧州委は2027年に、消費量ではなく年間回収量を基準値としたリサイクル目標を設定する委任立法を制定する見込みと紹介している。実現すれば、リサイクル目標がより現実的な方向に修正される格好だ。
  • 戦略的事業に認定された場合の許認可プロセスの迅速化については、欧州委提案から審査期間を3カ月延長した。採掘事業は27カ月以内、加工・リサイクル事業は15カ月以内に審査が実施されることになる。環境影響評価に必要なパブリックコンサルテーションは、この期間の一部となるなどの詳細も明確にされた。
  • 戦略的事業の対象には、欧州委提案にある採掘・加工・リサイクル事業に加えて、「戦略的原材料の代替となる革新的原材料を製造する事業」を追加する。

(吉沼啓介)

(EU)

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