9月の米地区連銀経済報告、各地区では所得層により消費にばらつきも

(米国)

ニューヨーク発

2023年10月20日

米国連邦準備制度理事会(FRB)は10月18日、地区連銀経済報告(ベージュブック、注1)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、9月の全体概況は、7月、8月の「控えめに成長した」との評価から「ほとんど変化が見られなかった」とした(2023年10月20日記事参照)。一方で、各地区連銀の詳細な報告では、所得層によって消費の状況にばらつきがあることが示唆された。

消費をめぐる状況について、各地区連銀は「生活必需品の価格上昇を受けて、裁量的支出はさらに鈍化しているほか、低所得者層の顧客の多くがクレジットカードへの依存を高めている」(クリーブランド連銀)、「顧客が小売店に来店する頻度が減り、可能なときは低価格の商品と置き換えるようになっている」(フィラデルフィア連銀)、「低所得の買い物客が買い物かごのサイズを小さくし、品質も落としている」(シカゴ連銀)、「貯蓄の減少とクレジットカード債務残高の増加により、自動車ディーラーの企業活動が影響を受けている」(セントルイス連銀)などと報告した。これらは、前月のベージュブックで余剰貯蓄が尽きたと報告されていた低所得者層の消費に影響が出始めていることや(2023年9月8日記事参照)、相対的に中・低所得者層の需要に左右されやすい小売業などの業種にも影響が出始めていることを示唆している。

他方で、「高級目的地への旅行は堅調だった」(フィラデルフィア連銀)、「国内レジャーの需要が鈍化する一方で、クルーズ活動、国外旅行は堅調だった」(アトランタ連銀)といったように、ラグジュアリー関連の需要が堅調なことも報告されている。このように、小売売上高の統計をはじめ(2023年10月18日記事参照)、消費は全体として見れば、比較的堅調な数字が続いているものの、所得層によって消費の状況にばらつきがある可能性がある。

また、「資金調達コストの上昇により、一部の購入者が手頃なモデルを選択するようになっている」(ニューヨーク連銀)、「金利上昇と価格高が自動車需要を圧迫している」(フィラデルフィア連銀)など、金利高の影響を指摘する報告や、全米自動車労働組合(UAW)のストライキの影響を懸念する報告も複数見られた。

なお、北東部のボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア3地区の連銀の主要な報告は次のとおり(注2)。

ボストンからは、「企業活動と雇用はわずかにしか拡大せず、物価上昇も小幅だった。観光事業者は2024年の強い需要を予想しているが、不動産関係者は依然としてかなり悲観的だ。雇用計画は比較的抑制されており、計画的な物価上昇も同様だった」と報告した。

ニューヨークからは、「労働市場の状況は依然として堅調だったが、地域の経済活動は若干弱まった。コト消費(体験消費)の支出減少が物品の支出増加を相殺し、全体として消費支出のペースはわずかに鈍化した。財務状況は若干悪化した。インフレ状況はわずかに緩和した」と報告した。

フィラデルフィアからは、「企業活動は引き続きわずかに減少した。個人消費は全体的に減少し、製造業と非製造業の活動も減少した。労働需給が改善したため、雇用は再びわずかに増加した。賃金の伸びとインフレはゆっくりと沈静化しつつあるが、控え目なペースで上昇した。経済成長への期待は引き続き抑制されている」と報告した。

(注1)連邦公開市場委員会(FOMC)の開催に先立って年8回公表されており、銀行からの報告や、ビジネス関係者などの声を基にまとめたもの。

(注2)シカゴについては、2023年10月20日記事を参照。

(加藤翔一)

(米国)

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