7、8月の地区連銀経済報告、「控え目に拡大」が大半、消費や労働市場に変化の兆しも

(米国)

ニューヨーク発

2023年09月08日

米国連邦準備制度理事会(FRB)は9月6日、地区連銀経済報告(ベージュブック、注1)を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。全体概況では、ほとんどの地域で7、8月は控え目に成長したと評価した。

分野別にみると、消費に関しては「観光関連の消費支出が予想を上回る好調さだった一方で、非生活必需品の小売り売り上げは引き続き鈍化している。新車販売は多くの地区で拡大したものの、消費者の需要拡大よりは在庫の積み増しが主因」とした。消費者の財政状況に関する記述では、「幾つかの地区からは、消費者が貯蓄を使い果たし、消費支出を支えるために借り入れに依存している可能性がある」と報告した。新型コロナウイルス禍後の強い消費を支える一因となっていた余剰貯蓄が尽きはじめたことが公的な報告で確認されたかたちだ(2023年7月5日付地域・分析レポート参照)。銀行セクターに関する記述でも、「大半の地区では消費者ローンの残高が増加し、一部の地区では消費者ローンの延滞が増加した」と、消費の記述と表裏の関係にある報告がされている。

住宅については、「ほぼ全ての地区で住宅在庫が依然として逼迫しており、これに伴って戸建て住宅の着工が活発化した」とした。他方で「資金調達コストや保険料の上昇により、手頃な価格の住宅を建設することがますます難しくなっている」とも記した。

製造業については、「サプライチェーンの遅延が改善され、既存の受注にうまく対応できるようになった」とする一方で、新規受注は「需要減少に伴ってほとんどの地区で変化なし、もしくは減少している」とし、受注残も減少したと報告した。

労働市場に関しては、「全国的に雇用の伸びが抑制された」とした一方、「熟練労働者の確保などは困難な状況にあり、労働市場の不均衡は続いている」とした。また、従業員の定着は製造業や運輸業など特定の分野でのみ改善されているとした。賃金に関しては、多くの地区で、下半期の伸びが短期的に幅広く鈍化するだろうと予測しれた。

物価については、「ほとんどの地区で物価上昇率が全体的に鈍化し、製造業と消費財部門ではより早いペースで減速した」とした。他方で「幾つかの地区では、保険費用が急速に上昇した」ほか、「幾つかの地区によっては、企業がコストを転嫁するのに苦労しており、その結果利益率が低下している」と報告した。

なお、地区別の報告に関し、北東部のボストン、ニューヨーク、フィラデルフィアの3地区からの報告は次のとおりだった(注2)。

ボストンからは、「事業活動は控え目に拡大。見通しに関しては、景気後退に関する差し迫ったリスクの報告は少なく、価格圧力はさらに緩和すると予想する」と報告した。

ニューヨークからは、「経済活動は夏を通じて堅調。労働市場は総じて堅調で、賃金も着実に伸びている。製造業の活動が低下する一方で、個人消費は着実に増加。在庫不足と住宅ローン金利の上昇により、住宅販売は引き続き抑制された。インフレ圧力はわずかに上昇した」と報告した。

フィラデルフィアからは、「事業活動は引き続きわずかに減少。製造業は8月に増加したが、個人消費は非製造業分野で減少。労働力供給は改善し、雇用も上昇。賃金と物価の伸びは引き続き沈静化した」と報告した。

(注1)連邦公開市場委員会(FOMC)の開催に先立って年8回公表されており、銀行からの報告や、ビジネス関係者などの声を基にまとめたもの。

(注2)シカゴ地区については、2023年9月8日記事を参照。

(加藤翔一)

(米国)

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